『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』
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発泡酒を片手に読者を導く上手でなくても正直な生き方
[レビュアー] 都築響一(編集者)
東京で育って会社員人生を送っていた彼が、30代なかばにして会社を辞め、大阪に引っ越してフリーライターになる……。当然、仕事はなく、ヒマを持てあまして身近な街を歩いたり、東京まで片道2000円台の深夜バスで往復しながら発見・体験したことをつづったエッセイ集。
ディズニーランドやとしまえんまで行きはするけれど、入園料がもったいなくて近くをうろうろしてみたり。折りたたみの椅子をそこらに広げて、ただ飲むだけの「チェアリング」を提唱したり、深夜の東京を明け方まで歩いてみたり。友達のお母さんに頼んで実家でほんとうの「家系ラーメン」をつくってもらったり。海上飲み会したいだけでフェリーに乗って往復したり。スズキナオさんはほぼどうでもいい場所をうろうろしつつ(たいてい飲みながら)、そこらへんにいる普通のひとたちとちょこっと出会い、さらっと去っていく。向上心とか野心とか探究心とか、そういう積極的な「心」はここにひとつもない。
というと、いまどきの若者のゆる~い生活記録と思われるが、実際そうなので、多くのひとはこれを「気楽でいいなあ」とか思いながら読むのだろう。でも、そういうエピソードを気軽に読み進めるうち、不意にグッとくる瞬間がある。それはスズキさんが出会うふつうのひとたちの、ふつうにまっすぐな人生だ。
世の中では「上手に生きる」ことがヨシとされているけれど、ここに出てくるひとたちは上手に生きてなんかいない。でも正直に生きている。そういうひとは世の中に、自分たちのまわりにいちばんたくさんいるはずなのに、脚光を浴びることはめったにない。
正直者が損をするのか得をするのかは死んでみるまでわからないが、上を目指すよりもまっすぐ、曲がらないように歩いていくほうを選ぶひとたちへと、スズキさんは僕らを導いてくれるのだ。発泡酒の缶を片手に。