田嶋陽子再文庫化で認識させられた、90年代から続く女性たちの苦境

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  • さみしくなったら名前を呼んで : Short stories 1
  • ナイルパーチの女子会

書籍情報:openBD

再文庫化で認識させられた90年代から続く女性たちの苦境

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 最近、田嶋陽子に注目が集まっている。一九九〇年代からテレビ出演し、フェミニストとしての発言が時に共演男性陣から軽んじられてきた彼女。だが昨今、#MeToo運動等の高まりをうけ、彼女の主張の重要性が再認識されている。

 一九九二年に発表された『愛という名の支配』の再文庫化もその流れのひとつ。結婚制度の成り立ちに潜む性差別を暴き〈男と女のあいだが非民主的な身分関係のままでは、愛とは支配の別名になります〉とバッサリ。他にも、今年、職場で女性がハイヒール着用の義務に異を唱える#KuToo運動が起きたが、本作のなかでもすでにハイヒール不要を謳い、また、自身と母親の関係を明かしながら抑圧の構造を語る。

 ところどころ古さを感じる部分もあるが、ほぼすべて、今まさに女性たちが声をあげている事柄に通じる。つまりは九〇年代から日本の女性たちの苦境は改善されていないのだと愕然とするが、こうして読み継がれることが救いでもある。若いうちに本書を読める人(女性だけでなく男性も)は幸せだとも思う。

 今年の秋にはフェミマガジン「エトセトラ」VOL.2で「We Love田嶋陽子!」という特集も組まれた。責任編集は『愛という名の支配』に解説を寄せた山内マリコと、柚木麻子。誌面にそれぞれが寄せた文章が素晴らしい。両氏もまた、現代人の生き方について書き続けている作家だ。

 たとえば山内の『さみしくなったら名前を呼んで』(幻冬舎文庫)は短篇集。ブスと呼ばれ続け劣等感が染みついた女や、年上の男と付き合って大人ぶりたい少女ら、他者の評価に翻弄されながらも生き方を模索する現代人が登場。若者、女性、地方と都市といった著者が関心を寄せるモチーフがよく分かる一冊。

 柚木の『ナイルパーチの女子会』(文春文庫)は立場の違う大人の女性二人の交流を通して今どきの友情の在り方を描くなかで、女性たちが日常で抱えるさまざまな問題も見えてくる。他にも、既存の価値観への問いかけが含まれる小説を多く発表している作家だ。

新潮社 週刊新潮
2019年12月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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