平成の大合併で相次ぐ「地名崩壊」に警鐘を鳴らす1冊

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地名崩壊

『地名崩壊』

著者
今尾 恵介 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
歴史・地理/地理
ISBN
9784040823003
発売日
2019/11/09
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

みだりに改称・変更致さぬやう――

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 たまにしか行かない土地で面食らうのは、駅の名前が変わっていたときだ。降りる駅はここでよかったっけと不安になる。町の名前も同様だ。

 平成の大合併を経てかなりの数の自治体が名前を変えたが、表記が変わるだけならまだしも、なじみのない地名になってしまうと困る。その土地の記憶をつなぎとめるものが消え、頼りない気分になるのだ。

 今尾恵介『地名崩壊』はちょっとセンセーショナルなタイトルだが、地名の由来や意義をていねいに検証していて読みごたえがある。「○○台」「○○が丘」など地形とは無関係の雰囲気地名や、外来語はカッコいいと盲信している人が採用したカタカナ地名、「イケてるもの」にあやかりたいだけの流行地名のみっともなさが浮かび上がる。土地の歴史や人々の記憶と密接に結びつくものであるはずの地名を時代とともに変えてしまったら、自分と先祖たちとのつながりを見失う。また、いま現在の人々の好みをもとに地名を決めることは、その土地を受け継いでくれるだろう未来の人々の存在をまったく視野に入れていない傲慢な行為だ。

 この本に引用されている明治新政府の通達(明治14年)には、「(地名は)往古より伝来のもの甚だ多く、土地争訟の審判、歴史の考証、地誌の編纂等には最も要用なるものに候条、みだりに改称・変更致さぬやう」とある。地名は国家の財産なのだ。変えないで守り育てる方法を探るべきではないだろうか。

新潮社 週刊新潮
2019年12月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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