[本の森 恋愛・青春]『ファースト クラッシュ』山田詠美/『太陽はひとりぼっち』鈴木るりか/『風神雷神』原田マハ

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[本の森 恋愛・青春]『ファースト クラッシュ』山田詠美/『太陽はひとりぼっち』鈴木るりか/『風神雷神』原田マハ

[レビュアー] 高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員)

 初めて山田詠美氏の小説を読んだ時は、中学生だった。自分の言葉を持つ大人びた少女たちに共感と憧れを抱き、大人の恋愛にドキドキさせられた。『ファースト クラッシュ』(文藝春秋)を読み終えて、あの胸が締め付けられるような、戸惑いのような感情をまた味わっている。

 美しい三姉妹の暮らす裕福な家庭に、父親はある日、亡くなった愛人の遺児である少年・リキを連れてくる。特別に美形でも愛想がいいわけでもないのに、人を惹きつけるリキ。個性的な魅力と自尊心を持つ姉妹たちは、それぞれのやり方で少年の気を引こうとする。が、彼は決して思う通りにならず、その言動に振り回されながら少女たちは成長する。リキに複雑な心境を抱く母は彼を苛むが、思いもよらないやり方で反撃され、その関係は次第に変わっていく。

 直接的な性描写があるわけではないのに、どうしようもなく官能的で、気がつくと私も少年に翻弄されていた。小説の中で姉妹たちが大人の女性になったように、読者である私にも数十年の時が流れた。芳しく味わい深い恋愛小説を愉しみながら生きてこられたことは、人生のご褒美だと思う。

 鈴木るりか『太陽はひとりぼっち』(小学館)は、ロングセラーとなった『さよなら、田中さん』に連なる三作目の小説だ。デビュー時には中学生だった著者は高校生になり、小学生だった主人公の花実は中学に入学した。豪快だけど何か秘密のありそうなお母さんと、物事を真っ直ぐに見る目を持った花実。相変わらずの節約生活を送るブレない母子のやりとりには、独特のおかしみが漂う。何度もグフッと笑いが漏れた。

 平穏に暮らしている二人の前に、死んだことになっていたおばあちゃんが登場し、お母さんの心の傷に花実は初めて触れる。大家さんの息子がニートになった理由が判明し、中学受験に失敗した三上くんは新しい希望を見つけ、変わり者の木戸先生には奇跡のような時間が訪れ……。自分が女子中学生だったら関わりたくない感じの男性たちだが、花実の彼らに対する姿勢は健やかで真っ直ぐだ。事情を抱えながらも懸命に生きる人々に、親近感が増していく。今後も書き続けてほしいシリーズである。

 原田マハ『風神雷神』(PHP研究所)の主人公は、近世で最も有名な画家の一人である俵屋宗達。天才少年・宗達は、信長の命令で天正遣欧使節団と共にヨーロッパに渡ることになり、使節の一人である原マルティノと固い友情を築きつつ、数々の名画と出会い成長していく。もちろんそのような史実はないが、実在する名画や画家がどんどん登場するので、美術が好きな人にはたまらないエンタテインメントだ。使節団の少年たちにその後訪れる過酷な運命を想像すると辛い気持ちになるが、信じるものや自分の行くべき道に真摯な彼らの姿に、心が洗われた。続編をぜひ読みたい!

新潮社 小説新潮
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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