[本の森 歴史・時代]『大江戸少女カゲキ団(一)』中島要

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大江戸少女カゲキ団(一)

『大江戸少女カゲキ団(一)』

著者
中島要 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758442954
発売日
2019/10/12
価格
704円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 歴史・時代]『大江戸少女カゲキ団(一)』中島要

[レビュアー] 田口幹人(書店人)

 職人気質の着物始末屋が、無愛想にも着物の染みや汚れとともに、人々の綻びも結い直す中島要の「着物始末暦」シリーズは、何でも使い捨てが当たり前となっている今の世の中において、物を大切にし、それぞれの物にも想い出があることを教えてくれた物語だった。日本の特有の美しさと市井の人情や温かさがにじみ出ていて、シリーズが完結した時は、余一とお糸ロスになったものだ。

 そんなこともあり、中島要の新刊を心待ちにしていたのだが、『大江戸少女カゲキ団(一)』(ハルキ文庫)というタイトルを見て驚いた。カゲキ団とは何なのか。歌劇団? 過激団? 装丁とタイトルについている少女から想像するに、歌劇団という線が強いのではないかと思いつつ読み進めた。

 掛け茶屋まめやに勤めている主人公の芹は、幼い頃、役者だった父親に芝居の稽古をつけてもらう日々を過ごしていた。しかし芹は、あることがきっかけで、芝居や踊りという芸事から離れる。その後、踊りへの未練を捨てきれないまま女中として働いていたのだ。

 ある日芹は、密かに心の中で踊りの師と仰いでいる東花円の稽古所を久方ぶりにのぞいた。そこで、芹と同年代の娘が美しい着物を身にまとい踊りを習っているのを目にする。踊っていたのは、蔵前天王町の札差で大店の主・大野屋時兵衛の娘で、蔵前小町と呼ばれていたお才だった。お稽古代を支払うことができない芹とは、住む世界が違う娘であるお才の舞いをのぞき見しつつ、「金さえ積めばあたしだって」という妬み心を抑え込む。

 抑えていた芸事への想いが溢れ出すが、どうすることもできず歯がゆい思いをしていた芹の元へ、突然花円が現れ、踊りを見せてほしいという。その申し出を受け入れ、芹がお弟子さんの前で白拍子を舞った時から、登場人物たちの想いが交錯し始める。

 想いを繋いだのは、女として生まれたことに対する考え方だった。本書には、女だったせいで、女には、女だから、女は、等の言葉が多用されて、この時代に女性として生まれたことへの悔しさと苦しさが伝わってくる。大店のお嬢様も、茶屋で働く貧しい町娘も、踊りの師匠も、皆それぞれに、女であるからこその生きにくさと不条理を感じてきたのだ。江戸時代の風俗を通じ、女性として生まれてきた苦しみを女性目線で描いた本書からは、「着物始末暦」とは一味違う中島要の魅力を感じることができるだろう。

 女だから成し遂げることができなかった夢があった。女だからそれに挑戦することすらできなかった。押さえつけられていた想いを解放するかのように、勝手気ままな振る舞いをする少女たちは、ある意趣返しを思いつく。

 なるほど、カゲキ団とはそういうことだったのか!

 今後のカゲキ団の活躍、見逃せないぞ。

新潮社 小説新潮
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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