「ユニコーンの『服部』は、ビートルズの『ホワイトアルバム』である」くらいは言ってみてもいいと思っている。
[レビュアー] スージー鈴木(音楽評論家)
1989年夏――平成最初の夏は、私にとって青春最後の夏だった。大学4年生、慣れないスーツとネクタイで就職活動に向かう夏(当時は4年生が就活する決まりだった)。ウォークマンから流れてくるのは、この夏に発売された、奇跡のような3枚のアルバム。
・ユニコーン『服部』(89年6月1日発売)
・岡村靖幸『靖幸』(89年7月11日発売)
・フリッパーズ・ギター『three cheers for our side~海へ行くつもりじゃなかった』(89年8月25日)
特にユニコーン『服部』は愛聴した。自由。ロックって自由なんだ。何やってもいいんだ――当時まだ珍しかったプラスティックの円盤に、これでもかこれでもかと自由が詰め込まれたアルバム。スーツとネクタイに縛られていく私の耳に、それは鮮烈に響き渡った。
本書は、ユニコーンや関係者へのインタビューを通じて、そんな『服部』の制作過程を丹念に解き明かしていく分析本。
これを読んで分かったことは、アルバムの内容以上に、制作過程そのものが自由だったことだ。ユニコーンの自由なメンバーに自由なスタッフ、そんな自由を許す当時の音楽業界の雰囲気が掛け合わさった、言わば「奇跡の1枚」であることがよく分かった。
あれから30年が経ち、私も50歳を超えて、一定の分別もあるので「ユニコーンは日本のビートルズである」などとは言わないが、それでも「『服部』は、日本のホワイトアルバムである」ぐらいは言ってみてもいいと思っている。
ビートルズのホワイトアルバム――正式名称は『ザ・ビートルズ』。仲違いし始めたビートルズの4人が、一人ひとり勝手に自由に、音とじゃれあった2枚組。『服部』も、そんなホワイトアルバムに負けず劣らず、自由なのだ。
というわけで、この分析本シリーズ、次回作も期待したい。次は「日本のホワイトアルバム(disc2)」なユニコーン『ケダモノの嵐』(90年)の制作過程を解き明かしていただきたい。あ、『服部』は「日本のホワイトアルバム(disc1)」ということです。