20世紀アメリカの夢…中野耕太郎著 岩波新書

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20世紀アメリカの夢

『20世紀アメリカの夢』

著者
中野 耕太郎 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784004317722
発売日
2019/10/19
価格
946円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

20世紀アメリカの夢…中野耕太郎著 岩波新書

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

 T・ローズヴェルトが大統領に就任した1901年から、ウォーターゲイト事件の73年までのアメリカの歴史が手際よく整理されて語られている。それだけではない。アメリカの強さよりももろさを観察する著者の筆は、この国に我々が抱くアメリカ像の通俗的理解を次々に打ち砕いていく。

 特に、第1次世界大戦の最中に国際連盟の土台を作った高潔なイメージのあるあのウィルソン大統領が、戦前「合衆国は今後二度と征服による領土拡張を求めません」と言いながら、中南米諸国に軍事干渉を繰り返していたり、黒人差別主義者だったりする事実は衝撃的だ。

 この時代、他国を圧倒する軍事力と経済力で二度の大戦の勝敗を事実上左右した世界大国の内部は、大統領から労働組合の末端まで陰湿な人種主義意識が根深くはびこり、お膝元の中南米で軍事行動を繰り返す帝国だった。対外的には、広島と長崎で核のジェノサイドを断行し、ベトナム戦争を引き起こした国でもあった。

 本書のもう一つの特徴は、ニューディールの位置づけである。つまり財政によって貧困層を包み込み、民衆の消費文化の設計も請け負うような「大きな政府」の「夢」は、総力戦を支え、50年代の「豊かな社会」の到来とともにかなり実現された。だが、共和党の民主党への盗聴に大統領が関与したとされるウォーターゲイト事件、ベトナム戦争の失敗、そして経済の後退の中、政府への不信が高まる。「社会的なもの」への関心も薄まり、市場の機能に依存した「小さな政府」化が始まる。そして「市場崇拝」と「内向的な個人主義」の時代が到来するのだ。

 本書で心動かされたのは、こうした見通しのよい叙述の中にあって、国の病理と闘う人びとの姿から目を離さないこと。白人や有色人種の勇敢な抵抗、移民街で支え合うセツルメント運動やウーマンリブなど、小さくとも根強い市井の力が大国を変えうることを教えてくれる。

読売新聞
2019年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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