独裁者はこんな本を書いていた 上・下…ダニエル・カルダー著 原書房

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独裁者はこんな本を書いていた 上

『独裁者はこんな本を書いていた 上』

著者
ダニエル・カルダー [著]/黒木章人 [訳]
出版社
原書房
ISBN
9784562057030
発売日
2019/10/19
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

独裁者はこんな本を書いていた 下

『独裁者はこんな本を書いていた 下』

著者
ダニエル・カルダー [著]/黒木章人 [訳]
出版社
原書房
ISBN
9784562057047
発売日
2019/10/19
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

独裁者はこんな本を書いていた 上・下…ダニエル・カルダー著 原書房

[レビュアー] 鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

 20世紀は、二つの世界大戦、独裁者による血の粛清、殺戮(さつりく)が横行した残虐な世紀であった。ロシアにおける共産主義革命をリードしたレーニン、後を継いだスターリン、ファシストによる政権掌握によってイタリアの歴史に新たな局面を告げたムッソリーニ、ドイツ国民に狂気を吹き込みユダヤ人を大量虐殺したヒトラー、数千万という死者を生むことを平然となした毛沢東らは、20世紀を象徴する独裁者である。本書は、20世紀の独裁者たちが書いた本について綿密に読解することで、従来と異なる独裁者像に迫ろうとする試みである。

 世紀末から共産主義革命時にかけて、ロシアでは著述への熱意が異常に高かったようだ。机から離れることがなかったレーニンは膨大な全集を残した。レーニンと異なり、貧しい育ちのスターリンも、その出発を著述から始めているのだが、整理する才能はともかく、著述の才能には欠けていたようだ。独裁者ではなく著述家こそ天職だったはずのムッソリーニは、虚栄心と誇大妄想に囚(とら)われ悲劇的な人生を終える。

 著者の独裁者に対するコメントが的確だ。ヒトラーの『わが闘争』を、「彼は人々に狂気を吹き込もうとした」「『わが闘争』は、階級闘争も“魂のなかの魂”の探求も拒み、獰猛(どうもう)な憎悪を選択する」とし、「臆面もなく暴力的に描写した駄作も、後世まで残りつづける」とこき下ろす。聖書に次ぐ部数とさえ言われた『毛主席語録』など、「毛沢東思想は最初は複雑な疑似言語学から始まり、やがて信仰へと発展していった。そのお粗末極まる宗教の中核にあったのは、何千万もの人間の血にまみれた手で書かれた、小さな赤い本だった」と括(くく)っている。

 今やほとんど手にすることもなくなった独裁者の本を精細に読み直した本書は、そのこと自体が貴重だ。独裁者に対する視野にとどまっている点が残念だが、別な視点の20世紀の歴史を読み取ることができる。黒木章人訳。

 

 <注>原題は「The Infernal Library」です。

読売新聞
2019年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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