スノーデン 独白 消せない記録…エドワード・スノーデン著 河出書房新社

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スノーデン 独白

『スノーデン 独白』

著者
エドワード・スノーデン [著]/山形 浩生 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784309227863
発売日
2019/12/02
価格
2,090円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

スノーデン 独白 消せない記録…エドワード・スノーデン著 河出書房新社

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 米国のサイバー諜報(ちょうほう)機関に勤めていた著者スノーデンは、あるとき自国の政府に疑念を抱く。自分のもつ政府資料には、中国政府による広範な市民監視が詳細に記されている。そのような情報を取得できる米国政府は、中国政府と同じように、市民を監視しているのではないか。

 職務上、広大な範囲のデータにアクセスできた著者は、やがてその疑念が的中していることを知る。米国政府は巨大IT企業から膨大なデータを受け取り、全市民を監視していたのだ。実際、著者はある市民のウェブ履歴を全て見る機会をもつ。こうした監視は民主的なプロセスで認められたものではないし、憲法が掲げる自由の価値に反するものだ。

 従うべき価値に、組織がまるで従っていないとき、内部の人間はどのように行動すべきか。著者は2013年に、前代未聞の告発をする。香港に潜み、米国政府は「大量監視の世界的システム」を構築していると、証拠を公表したのだ。激怒した米国政府に起訴された著者は、現在ロシアに亡命中である。本書はそれに至るまでの半生を自ら綴(つづ)ったものだ。

 著者は特段変わった家庭に生まれたわけでも、特殊な育ち方をしたわけでもない。幼少期はスーパーマリオに熱中し、少年期にはインターネットに夢中になった。コンピュータは好きだが、組織という「機械の内部」に入っても、心のない機械にはならなかった。だから政府が守るべき価値のために、政府の不正を告発した。

 この本の一つのハイライトは、著者が告発を決意するまでの心の動きだ。告発すると、政府にやり返されるし、恋人や家族に迷惑が及んでしまう。実際彼は亡命し、自由の多くを失うことになった。とった行動は大胆だったが、易々(やすやす)とその選択をしたわけではなかった。そんな彼はいま「かつては政府のために働いていたけれど、いまは社会のために働いている」と語る。知性と勇気の記録であり、自伝文学の新たな金字塔である。山形浩生訳。

 

 <注>原題は「Permanent Record」です。

読売新聞
2019年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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