三宅雪嶺…中野目徹著

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三宅雪嶺

『三宅雪嶺』

著者
中野目 徹 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784642052900
発売日
2019/10/10
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

三宅雪嶺…中野目徹著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 三宅雪嶺の名前は、日本史や倫理の高校教科書では、帝国憲法制定・国会開設の前後に「国粋主義」を唱えた思想家として登場する。『日本人』と題する雑誌で活躍し、日清戦争ののちにはロシアに対する強硬な外交論の一派に加わった。そうした点をとらえた位置づけなのだろう。

 だが雪嶺は、初期の東京大学で哲学を学び、人間と宇宙を包括する独自の哲学体系を作り上げた人物でもあった。また、ジャーナリストとして時々の政治と社会を論じた軌跡を検討しないかぎり、その全体像は見えてこない。この本は、厖大(ぼうだい)な史料調査によって雪嶺の生涯を跡づけた画期的な評伝である。

 一九二〇年代の雪嶺は、デモクラシーを積極的に支持し、女性の権利獲得に好意的で、社会主義にも一定の評価を与えていた。そののち日中戦争の時代になると、やはり「非常時」の体制を支持する動きに加わることになるが、大正時代と昭和初期の雪嶺は、そうとうにリベラルである。「日本人」の視野を全人類の文明へと広げようと試みる明治人の気骨が、そこではたしかに生き続けていた。(吉川弘文館、2300円)

読売新聞
2019年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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