『どんなに緊張してもうまく話せる!』
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緊張してもOK。言いたいことが伝わる話し方と振る舞いの基本
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『どんなに緊張してもうまく話せる! 「言いたいこと」が思いどおりに伝わる話し方のコツ』(渡辺由佳 著、日本実業出版社)の著者はフリーアナウンサー。
テレビ朝日のアナウンサーとして報道番組や情報番組に携わったのちに独立し、現在は話し方や電話応対、マナーなどの企業研修講師などを手広く手がけているそうです。
しかし実は「あがり症」で、アナウンサー時代も現在も、人前で話すときには緊張してしまうのだとか。
そのため「緊張せずに話せる方法」があるなら教えて欲しいくらいだといいますが、それでも緊張することで悩んでいる方に対しては、自信を持って伝えられることがあるのだといいます。
それは、「緊張していても大丈夫」だということ。
あがり症の私ではありますが、30年以上にわたってまがりなりにも「話す仕事」「伝える仕事」「教える仕事」に携わり、人前で話すことができています。
その秘訣は、「どんなに緊張していても話せる方法」を身につけているからだと自負しています。(「『どうしたら緊張せずに話せるようになりますか?』――はじめに」より)
そこで本書では「緊張せずに話せる方法」ではなく、「緊張しても話せる方法」を明かしているわけです。
きょうは第4章「大切なのにだれも教えてくれない 話し方と振る舞いの基本」のなかから、ポイントを抜き出してみましょう。
「ラ行」を30秒繰り返すと噛まなくなる
話すとき噛んでしまうことは、誰にでもあるはず。それは「緊張からくるストレス」のせいだと思われがちですが、実は「舌の筋肉が半分寝ている」ことが原因なのだそうです。
そのため著者はここで、話し出す前にウォーミングアップをして、下の筋肉を動かすことを勧めています。そうすれば、噛まなくてすむようになるというのです。
たとえば「東京特許許可局(とうきょうとっきょきょかきょく)」と話そうとすると、脳から舌に「『東京特許許可局』と話せ」という命令が届きます。
その際、舌のコンディションが整っていれば、命令どおりに発音できるはず。それ以前に、話すことなどを通じ、充分舌の筋肉を動かしていたからです。
一方、しばらく話していないときの舌の筋肉は、温かく湿った口のなかで半分寝ているような状態。
そのため脳からいきなり早口ことばのような言いにくいことばを発音しろと命令されても、その命令どおりに発音できないわけです。
いわば寝ている舌の筋肉に命令を届けることは、ウォーミングアップしていない陸上選手に「いますぐ100メートルを走りなさい」と言っているようなもの。
でも陸上選手が本番で速く走るためには、ウォーミングアップが必要です。
したがってアナウンサーも、まずは半分寝ている下の筋肉に「そろそろ本番だから起きて」と知らせるためのウォーミングアップを行うのだそうです。
舌の筋肉を起こすウォーミングアップは、話し出す前に「ラ行」の音を練習するだけです。 ここで、「ラレリルレロラロ」を繰り返し30秒間言ってみてください。
舌の動きはどうなりましたか? 舌が上あごに触れては離れるのがわかったのではないでしょうか。
「ラ行」の音は日本語のなかでも、舌の筋肉を最も大きく動かす音です。ラ行の一音一音を発音しようとすると、舌がアゴに触れ、弾きます。
そのように舌の筋肉がよく動くため、ラ行の音を練習すると滑舌がよくなるのです。(124~125ページより)
そこでプレゼンやスピーチ、面接などの本番5~15分前には、「ラレリルレロラロ」の音を30秒間、さらに「レロレロレロ」という音を30秒間、合計1分間の発音練習をすることを著者は勧めています。
そうすれば、たった1分間の練習で、自分の舌とは思えないほどなめらかに発音できるというのです。
その1分間で実力以上の動きをしてくれるので、舌の筋肉はトレーニングする価値のある筋肉だということ。(122ページより)
本番でしゃべる前には「あくび」がおすすめ
顔の筋肉が緊張したままの状態で話そうとしても、口元がなめらかに動かず、なかなかうまく話せないもの。それは、つまり口の形をほとんど変えることができず、発音が悪くなるからなのだそうです。
そこで、そうならないために、本番前に「ラ行の発音練習」をして口元の緊張をほぐすことが大切。
また、目元の強ばった表情筋を動かすためには、聞き手と目を合わせながら、笑顔をつくることも重要。
本番中はにこやかな表情を保ち、口元を動かすことも意識して話すべきだということです。そうすれば、緊張で強ばった顔の筋肉がほぐれて話しやすくなるわけです。
なお緊張すると声がかすれてしまうという人がいますが、それは緊張でのどが締まるためなので、締まった部分をゆるめることが必要。
そのため、発音練習の前には首を回したり、肩を回したりすることが大切。そうすると首と肩の無駄な力が抜け、のどもゆるみ、よい声を出しやすくなるというのです。
ところで、のどをゆるませるために最適な方法は「あくび」だといいます。あくびをするときのように、口を大きく開け、息を思い切り吸い込んでみると、冷たい息がのどに当たります。
その、冷たい息が当たったのどの位置が締まっているため、声が出しにくいということ。
あくびをすれば、のどの入り口が一気に開きます。
そして、のどに冷たい息が当たった瞬間、締まっていた部分がゆるみます。そのため、声を出しやすくなるわけです。(125ページより)
電話応対の前に発音力を上げる
ラ行の発音練習は、スピーチや面接、発表会などの幅広いシチュエーションで活用することが可能。
とくに、発音力を上げる必要がある「電話応対が多い人」におすすめだと著者は言います。
電話で聞き取りやすいかどうかの決め手は「発音力」。うまく発音できず、聞き取ってもらえなければ、言いたいことを相手に伝えることはできません。
そこで朝一番にウォーミングアップを行い、電話応対での発音力を上げることが大切だということ。
もちろんそれ以外の人でも、誰かと会う前にウォーミングアップしておけば、朝の挨拶をしたときなどに、声がはっきり出て好印象を持ってもらえるといいます。(126ページより)
人前で話す機会が多い人は、1日1分間の発音練習の習慣を身につけると、なにもしないときよりも、ずっとなめらかに発声できるようになります。
噛まないようになれば、聞き手の耳に言いたいことをはっきりと届けられるのです。(127ページより)
緊張せずに話すことは簡単ではありませんが、プロでさえ緊張すると聞けば、いくらか気持ちは楽になるのではないでしょうか?
そして著者のいうように「緊張せずに話す」のではなく、「緊張しても話せる」ように心がければ、精神的な重圧感から逃れることができ、円滑に話せるようになれそうです。
ぜひ、本書を参考にしてみてください。
Photo: 印南敦史
Source: 日本実業出版社