「本」と「ミステリ」の相性の良さを再認識できる名作文庫3選

レビュー

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  • 不穏な眠り
  • ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~
  • 泥棒はスプーンを数える

書籍情報:openBD

笑いの下に隠れた猛毒 テンポ良く設定が生きる短編集

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 ほのぼのとした笑いの下に隠れた猛毒。若竹七海の〈葉村晶〉シリーズはそうした毒を探り当てる私立探偵小説である。

『不穏な眠り』(文春文庫)は私立探偵・葉村晶が遭遇した四つの事件を収めた短編集。葉村は〈白熊探偵社〉という探偵業を営みながら、吉祥寺にあるミステリ専門書店「MURDERBEAR BOOKSHOP」でアルバイト店員として働いている。万年金欠状態の葉村は元編集者の店主、富山にこき使われながら、探偵業と書店バイトを掛け持っているのだ。

 収録作の「逃げだした時刻表」は、書店員兼探偵の設定が最も活かされた作品である。〈鉄道ミステリ・フェア〉開催中の店番を頼まれた葉村が何者かに襲われ、弾痕のあるABC時刻表を盗まれてしまう。時刻表の行方を追う葉村の追跡劇がドミノ倒しのように進むテンポの良い一編だ。

「水沫隠れの日々」では古書買取の際に、出所する女性の身柄引き取りを依頼される。冒頭から描かれる冴えない葉村の日常に思わず笑みがこぼれてしまうが、やがて読者は全く違った表情でこの作品と相対することになるだろう。ラスト数行は鮮烈である。

〈葉村晶〉シリーズでは富山のミステリ小説に関する蘊蓄が鑑賞点の一つになっているが、本にまつわるミステリと言えば三上延〈ビブリア古書堂の事件手帖〉シリーズ(メディアワークス文庫)だ。鎌倉にある古書堂の若き店主、篠川栞子が探偵役となり、夏目漱石や江戸川乱歩といった有名作家の作品に秘められた謎を解き明かしていく。書誌学的な探求への興味を、キャラクター小説の趣向と掛け合わせたところにシリーズの功績がある。

 古書店にいるのは探偵ばかりではない。ローレンス・ブロックの〈バーニイ・ローデンバー〉シリーズは、泥棒稼業をしながら古書店を営むという、史上稀にみる兼業古書店主が活躍する。最終作『泥棒はスプーンを数える』(集英社文庫、田口俊樹訳)は、フィッツジェラルドの手書き原稿にまつわる事件を描く、洒落っ気と意外性に富んだ話だ。

新潮社 週刊新潮
2019年12月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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