賞金総額1300万円! 出版不況でも太っ腹の野間文化財団〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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人外

『人外』

著者
松浦 寿輝 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065147245
発売日
2019/03/07
価格
2,530円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

文学賞受賞の“完全制覇”を近づけた野間文芸賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 読売文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞。純文学のベテラン作家に与えられる、この三大文芸賞のうち、もっとも古い歴史を持つのが野間文芸賞。十一月六日、その最新となる第七十二回の受賞作が、松浦寿輝『人外』(講談社)に決まりました。この結果を受けて「まーた、松浦さんか!」と声を上げたのは、わたしだけでありましょうか。

 というのもですね、この御仁は詩人、評論家でもあるので、詩に関しては高見順賞、萩原朔太郎賞、鮎川信夫賞を、研究・評論に関しては吉田秀和賞、三島由紀夫賞、渋沢・クローデル賞、芸術選奨、毎日芸術賞特別賞を受賞。小説だって、芥川龍之介賞、木山捷平文学賞、読売文学賞、谷崎潤一郎賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞をすでにとっており、二○一二年には紫綬褒章まで受章してるんですよ。あとは泉鏡花文学賞と川端康成文学賞を受賞すれば、コンプリートも同然の恵まれた受賞歴の持ち主なんです。野間文芸賞の賞金は文学賞としては破格の三百万円なんですが、これまでの賞金総額は一体いくらになるのやら。

 第四十一回となる野間文芸新人賞の受賞作は、古谷田奈月の『神前酔狂宴』(河出書房新社)と、哲学者として著名な千葉雅也の小説デビュー作『デッドライン』(新潮社)です。賞金は各百万円。どちらもテーマ性、問題提起力に優れた作品になっていますが、わたしが気になっているのは、今年から新設された野間出版文化賞。アニメ映画監督の新海誠、作家の東野圭吾、少女漫画雑誌の「なかよし」(講談社)・「りぼん」(集英社)に授与されており、同賞特別賞にはアイドルグループ「乃木坂46」メンバーの白石麻衣、生田絵梨花がそれぞれ選ばれています。賞金各百万円。

 戸森しるこの『ゆかいな床井くん』(講談社)が受賞した、第五十七回野間児童文芸賞の賞金二百万円を加えると、総額千三百万円! 選考委員への謝礼額も加えたら、その倍は堅い出費でありましょう。長年にわたる出版不況が、おびただしい愚痴と共に叫ばれている昨今において、実に景気のいい数字。太っ腹ですよ、野間文化財団は。

新潮社 週刊新潮
2019年12月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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