「読んだ人が思わず笑ってしまう作品」村越正明(文・画)『みんなよくなれ 鳥獣りは』

レビュー

8
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みんなよくなれ 鳥獣りは

『みんなよくなれ 鳥獣りは』

著者
村越正明 [著]
出版社
三輪書店
ISBN
9784895906760
発売日
2019/10/05
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

「読んだ人が思わず笑ってしまう作品」村越正明(文・画)『みんなよくなれ 鳥獣りは』

[レビュアー] 細川貂々(漫画家・イラストレーター)

『鳥獣りは』というタイトルを最初に見たときに「なんて可愛らしいタイトル!」と思ったのですが、「りは」はリハビリのことだと後からわかって、「可愛いの裏側には大変があったんだなあ」と思いました。

 でも、おもしろいタイトルの付け方で、私はこういう感じが大好きです。

 この本は脳卒中で身体に麻痺が残ってしまった村越さんが経験したリハビリの様子を、ご自身がお好きな「鳥獣戯画」をモチーフにして絵を描かれたものをまとめた画集です。

 私も鳥獣戯画は大好きです。カエルとウサギがお相撲をとってる絵や、猿とウサギが水遊びをする絵などなどユーモアのあふれる絵ばかりで、こういった動物を擬人化して描かれた絵は昔から好かれていたんだなあと感じます。

 村越さんは、リハビリ室でリハビリをしている患者さんたちや療法士の先生たちが、自然の中にいる動物たちに見えたといいます。確かにしんどそうなことをしてる様子を動物にたとえて絵にしてみると、ユーモアがあって、思わずプッと吹き出してしまうようになるなあって思いました。

 私は以前、夫のうつ病体験記を漫画にした本を出版したことがありますが、そのときも、うつ病という重いテーマをなるべく軽くしたいと考えて、ユーモアを意識しながら作品を描きました。そして、なるべくなら読んだ人が思わず笑ってしまうような感じに描きたいと思いました。そうしないと読んだ人が重い内容を重く受け止めてしまい、その人までがしんどくなってしまうんじゃないかと思ったんです。

 この『鳥獣りは』も同じような思いが込められているのだなあと感じつつ、時には「わっ、でもこれ実際大変そうだな」とハッとさせられながら読み進めました。

 自分のことをカエルに見立てて、入院から退院までの様子をユーモアたっぷりに可愛く、でも現実をきちんと描かれていて、経験したことのない私でも「ああ、こういう流れでリハビリをするのか」とよくわかりました。途中に出てくる「みんなよくなれ」って書かれている扉絵も、村越さんの願いが込められていてジーンと心に響きます。

 村越さんが回復期病院に転院した当時に書いたメモ書きが、最初のほうに掲載されているのですが、これを見るととってもビックリします。こんなふうに自分で思うように鉛筆を動かせなかったのに、回復してくると、ここまで素晴らしい絵を描けるようになったのかって拍手を送りたくなります。

 自由に自分の思った通りに筆を動かせるようになるまでどれくらいの大変さがあったのかは、私も想像してみたのですが、あまりうまく想像できませんでした。私は今、自由に身体を動かせるし、手も動かせて絵や文字を書けているからです。こういう想像もつかないことを「この絵から想像してみてね」って問いかける要素があるところもいいなあと思いました。絵の持っている言葉を超えた説得力に、「いとおそろし」等、昔の言い方の言葉を添えているところが、ふつうの本にはないリアルな感じを伝えてきます。同じような体験をしてる人も勇気づけられると思います。

 私が特に好きなのは「玉掴み」の絵! 簡単そうに見える玉(お手玉)をつかむ作業も最初のうちはしっかりつかむよりもパッと放す方が大変なのだと書いてあって、そういうものなのかあと思いました。「およばずもおもひやむことなかれ ゆめぞたまなり(できなくても諦めないで…希望こそが宝だよ)」って書いてあるのも好きです。この言葉は誰にでも響くんじゃないかな。あと、個人的に爬虫類・両生類が好きなので、「龍」が一生懸命に玉をつかんで放してる様子もお気に入り。……という感じで、この本は経験してない人も経験した人も、楽しくリハビリについて考えることができる本だと思います。

作業療法ジャーナル
第54巻1号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

三輪書店

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