• 白銀の墟 玄の月 第一巻
  • 茶匠と探偵
  • 抵抗都市
  • 月の落とし子
  • 赤い部屋異聞

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大森望「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 2019年の小説界最大の話題作は、日本ファンタジーの最高峰〈十二国記〉18年ぶりの長編、小野不由美『白銀の墟玄の月』。全4冊合計の刷り部数は250万部を突破。売れすぎて新潮文庫の本文用紙の在庫が底をつくとか、冗談みたいな椿事も出来したらしい。これでシリーズ完結というわけじゃないものの、28年前にスタートした大きな物語が大団円を迎えたかたち。シリーズ全体で15冊の物量に今まで手を出しかねていた人には、年末年始の一気読みをお薦めしたい。記憶に残る正月休みになることは保証します。

 アリエット・ド・ボダール『茶匠と探偵』は、フランス人の父とヴェトナム人の母を持ちパリで育った女性SF作家の初の邦訳書。“新大陸発見”がコロンブスと同時期に中国人によってなされた改変歴史世界の遥か未来を描く〈シュヤ宇宙〉シリーズの9編を収録する。作り込まれたアジア的な宇宙が魅惑的。

 一方、佐々木譲『抵抗都市』は、日本が日露戦争に敗北し、事実上ロシアに統治されている大正時代の東京が舞台となる。警視庁刑事課の特務巡査・新堂を軸にした警察ミステリだが、ロシア化によって変貌した東京がもう一方の主役。小説後半では、事件の思いがけない背景が明らかになり、虚々実々の情報戦が始まる。

 穂波了『月の落とし子』は19年のアガサ・クリスティー賞に輝く超大型サスペンス。月面で始まった物語は、思いがけない展開を経て、なんとびっくり千葉県船橋市へと落下する……。

 法月綸太郎『赤い部屋異聞』は、江戸川乱歩、小泉八雲、ジョン・コリア、都筑道夫などの短編を(主に)本格ミステリ的に再解釈するアクロバティックな9編を集めた作品集。悪夢のような迷宮感覚が楽しめる。

新潮社 週刊新潮
1月2・9日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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