【写真集】『私の知らない母』笠木絵津子著 日本統治時代の朝鮮、台湾と今
[レビュアー] 喜多由浩(産経新聞社 文化部編集委員)
現代美術家として活躍する著者の経歴は華麗かつユニーク。京都大の基礎物理学研究所からフリーカメラマンとなり、米ニューヨーク大学大学院芸術研究科に学んだ。母・久子さん(1924~98年)の生涯も波乱に満ちている。日本統治時代の朝鮮・鏡城(現北朝鮮)で生まれ、台湾、満州(現中国東北部)を経て、昭和21年、日本へ引き揚げた。日本が統治や経営に関わった主要な地域すべてで暮らした経験を持つ。
大正13年、鏡城で生後100日の母を囲む一家。巨大なヤシの木がそびえる昭和3年頃の台湾・高雄駅前や街の風情。11年頃の満州・撫順での女学校の遠足や水泳。16年頃のハルビンのエキゾチックな街並み…。
転居の度、大事に写真帳へ保管されていた写真は外地で生きた「日本人一家の姿」を浮き彫りにしてゆく。さらに、日本統治時代の写真と現代の写真を組み合わせ、“時空を超えて”歴史をつないだところが現代美術家らしい。著者は言う。「私は母のことを何も知らなかった。(生前に)もっと聞いておきたいことがたくさんあったのに。過去と現在の家族をつなぐことで幼い日の母に会える気がします」(クレオ・9000円+税)