海を渡ったスキヤキ…グレン・サリバン著 中央公論新社

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海を渡ったスキヤキ

『海を渡ったスキヤキ』

著者
グレン・サリバン [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784120052507
発売日
2019/11/20
価格
2,200円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

海を渡ったスキヤキ…グレン・サリバン著 中央公論新社

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 上京するまで、正月にすき焼きを食べる土地があると知らなかった。所変われば食も変わる。本書はアメリカにおける和食の変遷を追う。

 アメリカでいち早く脚光を浴びたのは寿司(すし)だと著者は記す。家政学者が巻き寿司を「ジャパニーズ・サンドウィッチ」として紹介したのは、1905年のこと。ただ、記事が反響を呼んだ形跡はなく、「SUSHI」が流行するのは1960年代以降だ。半世紀以上の時間の裏には、日系移民の苦難の日々がある。

 移民が増えるにつれ、黄禍論が高まり、西海岸で「アジア排斥同盟」が結成される。当時、日本人街に和食店はあったものの、アメリカ人には縁遠い存在だった。転機となったのは戦争である。日本に駐屯した米兵が「SUKIYAKI」文化を持ち帰り、全米に広まったのだ。和食店が普及する中で、寿司バーも登場する。アメリカ人の口に合うようにと、日本人シェフが開発したのがカリフォルニア・ロールだった。

 国境を越えると、言葉と同じように、食も翻訳される。日本人が西洋料理からナポリタンを生み出したように、SUSHIは世界で独自の進化を続けている。翻訳された和食を「偽物だ」と非難する向きもあるけれど、食が境界線を越えてゆくのは豊かなことである。

 何より、最初に和食を翻訳したのは、苦境に立たされた日系移民だ。ベーコンで出汁(だし)をとった「だんご汁」や、強制収容所で考案された「スパムむすび」。こうしたメニューを知るにつけ、頭が下がると同時に、我が身を振り返る。海を渡って日本にやってきたものはたくさんあるけれど、それらに偏った眼差(まなざ)しを向けてはいないだろうか、と。自分が馴染(なじ)みのない食に対して、フラットでありたいと思う。

 上京して18年が経(た)ち、この年末年始は初めて東京で過ごしている。年の瀬、浅草ですき焼きを頬張りながら、アメリカのすき焼きはどんな味がするだろうかと想像した。

読売新聞
2020年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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