グランドシャトー…高殿円著 文芸春秋

レビュー

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グランドシャトー

『グランドシャトー』

著者
高殿 円 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163911229
発売日
2019/11/14
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

グランドシャトー…高殿円著 文芸春秋

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 キャバレー。なんとも懐かしさを感じさせる響きだ。けれども、今や絶滅寸前。60年あまりの人生で二、三度しか経験はないが、この本を読んで何としてももう一度行きたくなった。

 ♪京橋はええとこだっせ、恋の花も咲きまっせ……。関西人なら誰もが知っている京橋グランシャトービルのCMソングである。大阪の京橋は猥雑(わいざつ)な場末の繁華街だ。そこにたたずむ西洋の古城に似せた飾りつけのビル。そのビルにあったキャバレーをモデルにした物語である。(♪は、原文では歌を表す波の記号)

 キャバレーが全盛だった1960年代、家出してホステスになったルーは、大阪らしいド派手でやんちゃなアイデアを次々と繰り出し、キャバレー・グランドシャトー(実在するビルの名前とは1字違いだ)を大阪一にのし上げる。

 着飾ったホステスばかりの中、ナンバーワンの座を守り続けるのは、黒のドレスに身を包み静かに話す真珠。ルーは、古びた長屋でつつましやかに暮らす真珠の元に転がり込んだ。

 地味で平凡。昼間の二人の日常は「にせもんの光」に輝く夜の世界とはまったく違うものだった。しっとりした昭和の暮らしが懐かしく目に浮かぶ。そんな大阪もあったのだ。

 悩み抜いた末、マスコミに進出するため上京したルーは、歯に衣(きぬ)着せぬ関西弁で大人気を得る。そして20年。大阪に凱旋(がいせん)し、昔どおりに長屋で暮らしていた真珠との生活を再開する。しかし、時の流れは残酷だ。キャバレーは見る影もなく落ち込み、真珠の体は衰えていく。

 ルーは不思議でたまらなかった。莫大(ばくだい)な蓄えがあるはずの真珠なのに、どうしていつまでも質素な暮らしに甘んじているのか。ラスト、その謎を知ったあなたは泣くだろう。必死で「にせもんの光」を発し続けたルーと一緒に。

 逆境をはねのけて大活躍するルーに元気づけられ、どこまでも優しい真珠に心を癒やされた。きっと今年はいい年になる。読み終えた時そんな気分になる新年にふさわしい一冊だ。

読売新聞
2020年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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