パワースポットはここですね…高橋秀実著 新潮社

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パワースポットはここですね

『パワースポットはここですね』

著者
高橋 秀実 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784104738069
発売日
2019/10/24
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

パワースポットはここですね…高橋秀実著 新潮社

[レビュアー] 木内昇(作家)

 日本にある世界遺産を巡る予定が、いつしかパワースポット訪問へと移行してしまった――そんな奇天烈(きてれつ)な経緯をたどった一書である。とはいえそこは俺流アプローチを貫く著者のこと、素直にスピリチュアル礼賛とはいかない。かすかな懐疑を胸に秘め、評判の地へ赴くのだ。

 明治神宮にある清正井(きよまさのいど)、UFO目撃情報が絶えない福島市飯野町の千貫森(せんがんもり)、有馬療養温泉の龍穴。それぞれの起源をひもとき、その場に渦巻くパワーらしきものを、物理学や地質学、民俗学まで用いて解き明かそうとしている点が興味深い。千貫森の磁場の狂いは、かの地の石に含まれる磁鉄鉱の仕業らしい。はたまた、滝行とは重力というパワーを浴びる行いだと定義、そこから、重力の働きを説明する理論が未完成だという事実を導き出す。そう、物理学や科学にも検証不能な不思議は宿っているのだ。

 この中で異彩を放つのが、縁結びの神様として名高い浅草は今戸神社の宮司夫人である。自らを「人間パワースポット」と称する彼女は、出会いを求める女性参拝客に言う。「黒はダメ。ピンクを着なさい」……ご神託とは対極、果てしなく現実的なアドバイスではないか。

 各スポットで出会う、パワーをもらいに来た人々も、切羽詰まった様子は薄い。どこか物見遊山で、中には「パワースポットって、はっきり言って、ただの自己満ですから」と斬って捨てる強者(つわもの)も。うーん、言い得て妙ではある。

 それでも人はパワースポットを目指すのだ。どこまで努めても「絶対に大丈夫」にはたどり着けない人生という道程で、見えざる保証書を手に入れんとするかのように。例えば偶発的事象に見舞われたとき、人はそこに啓示を読み取って心をなだめる。降って湧いた試練を、自分を成長させる糧と信じ、次なる一歩を踏み出す。実はこの想像力こそが、人の歩みをたくましく支える身近にして最強のパワースポットではないか――そんなことも思ったりする。

読売新聞
2020年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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