『十二月の十日』
- 著者
- ジョージ・ソーンダーズ [著]/岸本 佐知子 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784309207865
- 発売日
- 2019/12/12
- 価格
- 2,640円(税込)
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人間のダメさから敬虔な気持ちに 摩訶不思議な短篇集
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
出てくるのはいずれ劣らぬダメ人間ばかり。そのダメっぷりをこれでもかと描きながら、最後にはとんでもなく美しいものに触れたと敬虔な気持ちにすらさせる、摩訶不思議な短篇集である。
リアルな日常の中で起きるドラマを描くものもあれば、SF的な舞台を設定したものも。私たちが生きている世界と似ていながらも何かが狂っているディストピアの設定具合は、ひどさにおいて突き抜けている。
たとえば「スパイダーヘッドからの逃走」のジェフは囚人で、言語能力を高めたり、羞恥心をゼロにしたりする薬を注入され、その効果を観察されている。薬の力で誰かを愛することもあれば、愛さなくなることも。人体実験は次第にエスカレートしていき、ジェフは人間の尊厳を破壊する場所からの脱出をはかる。
「センプリカ・ガール日記」で日記を書いているのは、愛する長女の誕生日パーティーを開いてやりたいが、プレゼントを買うにもクレジットカードの使用を差し止められる寸前の父親だ。彼がいる社会では、「SG」と呼ばれる人権を無視したある飾りものが、富の象徴とされている。
おぞましい「SG」は、アメリカの移民がおかれている現在の状況を反映しているのだろう。リアルに描かれる、「ホーム」の主人公マイクは帰還兵で、妻と友人に裏切られ、戦争の後遺症にも苦しんでいる。現実社会もディストピアのひどさも、実は変わりがないと示すよう。
だからこそ、これまでの作品と比べて、希望を感じさせるものが多くなっているのかもしれない。
表題作「十二月の十日」では、いじめられっ子の少年と、病に冒されて自殺を図ろうとする男が凍った湖で出会う。死を選んだはずの男は、少年の命を救い、彼自身も救われる。人間の中には自分でも気づかないような気高さがあり、それを見つけた人だけが絶望の先に希望を見ることができるのだろうか。