キッドの運命…中島京子著 集英社

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キッドの運命

『キッドの運命』

著者
中島 京子 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087716887
発売日
2019/12/05
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

キッドの運命…中島京子著 集英社

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 「初めまして」。私が声を掛けたのは、ゴッホの左耳だ。自分で切り落としたとされる左耳が、子孫のDNAを基に再現されている。しかも音に反応する仕掛けもある。このバイオアート作品を目の当たりにして考えた。いつか、ゴッホ本人が復活する日も遠くないのでは……?

 ここまで来ると、怖いと思う人は少なくないだろう。だがそれは、「今」だけかもしれない。これまでも新しい技術が出るたびに、初めは抵抗を感じ、普及してくると慣れてきて、やがて当たり前のものとなってきた。この繰り返しで、社会に様々な技術が定着し、便利で快適な暮らしが実現されるのだ。

 本書は、現在ではまだ抵抗を感じる技術が、既に当たり前となっている近未来を描いた連作短編集だ。たとえば、「汎用(はんよう)人工知能」に対する大量破壊の暴動が起きるほど、人間を上回る知性を持つAIが浸透していたり、はたまた、寿司(すし)屋のネタが昆虫から作った人工魚肉になっているほど、ほとんどが人工食材になっていたりする。他にも、予期せぬ妊娠が「古めかしくも野蛮な事態」と思われるほど、人工子宮に外注するのが主流になっている世の中。

 私が生きている間にまさに現実となる可能性は、十分にある。現時点でも、AIは囲碁で人間を負かし、車を運転し、家では人と会話する。栄養価の高いコオロギスナックは売られているし、人工子宮で胎児を発育させることはヒツジで成功している。

 6篇(へん)を通して様々な角度から、変容した社会や価値観を見ていくと、得るものの背後に失うものも浮き彫りになる。同時に、変わらないものにも気付く。失敗して悩むとか、美味(おい)しいものに感動するとか、親心が芽生えるとか。「怖い」という感情もそう。私たちの、人間味だ。

 この些細(ささい)な人間味が、未来を拓(ひら)くために重要なカギになるかもしれない。だからきっと、この先も問い続ける。生きるとは、人間とは何か。

読売新聞
2020年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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