『このミス』大賞のユニークな快作は、事件を解く鍵となる「紙」の付録つき

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紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人

『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』

著者
歌田年 [著]
出版社
宝島社
ISBN
9784299001405
発売日
2020/01/10
価格
1,518円(税込)

事件を解く鍵となる“紙”が付録 『このミス』大賞のユニークな快作

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 宝島社の女性誌は贅沢な付録で知られるが、書籍にもおまけが付くとは! 第一八回『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作は内容もさることながら、事件を解く鍵となる“紙”が付いた仕掛け本であることも売り。主人公の紙鑑定士という職業が架空のものであるのを逆手に取ったユニークな商法だ。

 西新宿に事務所を構える紙鑑定士の渡部圭のもとへ杏璃という娘が訪ねてくる。彼氏の浮気調査を依頼したいというのだが、どうやら神探偵と紙鑑定を間違えたらしい。彼女は戦車の情景模型――ジオラマの写真を見せ、プラモデルの趣味もない彼氏が作ったことに不審を抱いていた。渡部は小銭欲しさから知り合いの専門家に訊いてみると依頼を受けてしまうのだった。

 専門雑誌の編集者を通じて土生井昇という伝説の模型製作者――モデラーを紹介された渡部は、ゴミ屋敷然とした彼の家を訪ね事情を説明する。土生井はSNSの知識もロクにない酒浸りの変人だったが、模型に関する知識は本物だった。彼から戦車に関するヒントを貰った渡部は杏璃の彼氏の相手を突き止め、彼女の依頼に応えてみせた。

 杏璃から新たな仕事を紹介して貰うことになるが、その依頼人・曲野晴子も精巧な家のジオラマを手掛かりに行方不明の妹を捜してほしいという。再び土生井のもとを訪れ、模型の家の内部に不穏な演出が凝らされているのを発見した渡部は、ジオラマの庭の樹木を解析し、モデルになった家を突き止めるのだが……。

 注目は何といっても、紙鑑定士と伝説のモデラーという探偵コンビの造形。二人ともソフトな人柄だが、仕事に関しては徹底しており、レイモンド・チャンドラーの人物像をも髣髴とさせる。ジオラマを手掛かりに謎を明かしていくありさまは暗号解読にも通じていよう。著者自身、紙に通じたモデラーというが、その強みを存分に活かした快作だ。

新潮社 週刊新潮
2020年1月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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