『野守虫』
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刑事と拳銃 柴田哲孝
[レビュアー] 柴田哲孝(作家)
刑事・片倉康孝(かたくらやすたか)シリーズも、『野守虫(のもりむし)』で四作目になる。
主人公の片倉の“乗り鉄”ぶりも、ここ二作ですっかり板に付いてきた。今回も部下の柳井淳(あつし)、元妻の智子(ともこ)、小料理屋の女将の可奈子(かなこ)などお馴染みのメンバーも登場し、秘境のローカル線“飯田(いいだ)線”を舞台に物語は静かに進行していく。
実は『野守虫』には、もうひとつの主役がある。警察官が使用する拳銃、ニューナンブМ60リボルバーだ。
これまでの片倉は引退間際のロートル刑事らしく、足を使っての“地取り”の地道な捜査を通じて犯人を追い詰めていくことが多かった。だが、今回は竹迫和也(たけさこかずや)という凶悪犯をリアルタイムで追う展開から、片倉も必然的に拳銃を手にすることになる。
刑事と拳銃。この一見して普遍の組み合わせが、実は大きな意味を持ってくる。
本来、日本の刑事は、制服の警察官のように日常的に拳銃を携帯しているわけではない。事件や捜査の性質に応じて使用許可を取る。また携帯したとしても実際に使用することはきわめて稀(まれ)で、刑事として定年まで勤め上げたとしても、生涯一度も現場での実射を経験しない者がほとんどだ。
もちろん片倉も、これまで現場で拳銃を撃つような場面には一度も遭遇したことはなかった。定例の射撃訓練も、好きではない。むしろ射撃は、苦手な方だ。
その片倉に、あえて拳銃を持たせてみた。そして、連続殺人事件の現場となる天龍峡(てんりゅうきょう)へと送り込む。元妻の智子と共に次第に凶悪犯に追い詰められていく中で、最後に何が起きるのか――。
我々小説家は、刑事と拳銃の関りを安易に書きすぎていたのではないか。だからこそ、『野守虫』では“刑事と拳銃”についてリアルに書いてみたかった。
衝撃の結末に期待してほしい。