中央駅…キム・ヘジン著

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中央駅

『中央駅』

著者
キム・ヘジン [著]/生田 美保 [訳]
出版社
彩流社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784779126116
発売日
2019/11/12
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

中央駅…キム・ヘジン著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞調査研究本部客員研究員)

 ホームレスとして生きる。それは過去を捨て未来を諦め、今日一日の食物と寝場所を求めて、ただ現在が過ぎて行くのに耐え続けることだ。ソウル駅を思わせる「中央駅」。その広場に居着いた「俺」と、病んだ「女」とのひと夏の路上の恋は、だから全ての文章が現在形で描かれていく。

 二人は現在の窮境から抜け出せるだろうか。しかし仲間内では盗みが横行し、雇用はヤミで差配され、弱者は弱者を搾取する。一度落ちた社会の底辺には、さらなる悲惨が待ち受ける。羞恥心も不潔さも超越した愛情が、皮肉にも二人を広場に引き留める。

 作中には実存をめぐる問いが幾つも放り出されている。

 <今が続くことだけを望むようになるのか。災難の中で、災難が終わらないことを願うようになるのか>

 <全て消え失せた後に最後に残る感情はなにか>

 『娘について』が日本でも注目を集めた1983年生まれの作者キム・へジン。韓国文壇の逸材とされるが、この先、アジアを代表する作家に育つ可能性を感じる。隣国の女性作家らの活躍はブームに終わりそうにない。生田美保訳。(彩流社、1500円)

読売新聞
2020年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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