アリストテレス 生物学の創造 上・下…アルマン・マリー・ルロワ著

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アリストテレス 生物学の創造 上

『アリストテレス 生物学の創造 上』

著者
アルマン・マリー・ルロワ [著]/森夏樹 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784622088349
発売日
2019/09/18
価格
4,180円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

アリストテレス 生物学の創造 下

『アリストテレス 生物学の創造 下』

著者
アルマン・マリー・ルロワ [著]/森夏樹 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784622088356
発売日
2019/09/18
価格
4,180円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

アリストテレス 生物学の創造 上・下…アルマン・マリー・ルロワ著

[レビュアー] 三中信宏(進化生物学者)

 生物学の歴史をさかのぼれば、アリストテレスにたどりつく。しかし、「アリストテレス以来2000年の歴史をもつ生物学」と口にするとき、それは「中国4000年の伝統の味」と同じく単なる枕詞(まくらことば)でしかない。現代のわれわれは、2400年も前のギリシャ時代に生きたこの哲人とその科学上の業績を手の届かない“神棚”に祭り上げておけばそれでよいのだろうか。

 上下巻合わせて600頁(ページ)にもなる大著だが、読み終えて即座に「おみそれしました」とひれ伏してしまった。アリストテレスの哲学的著作である『分析論前書』『分析論後書』『カテゴリー論』などはその厳密さと難解さをもって知られる。一方、『動物誌』『動物発生論』『動物部分論』など自然誌の著作群には、具体的な動植物に関する膨大な知見が盛り込まれていて、ずいぶん趣が異なる。1世紀前の生物学者ダーシー・ウェントワース・トンプソンは『動物誌』をギリシャ語から翻訳して飽くことなく詳細な注釈を付けた。

 本書は、アリストテレスがどのようなデータと論理の上に生物学を築いたのかを、フィールドワークの現場となったエーゲ海レスボス島にある潟湖(ラグーン)を視野に置きながら考察する。彼が提唱する生物体をつくりあげる究極要因としての「形相(エイドス)」は長らく概念的誤謬(ごびゅう)であるとみなされてきた。しかし、現代の発生生物学の観点から見れば因果過程としての個体発生における「情報発現」はまさに形相因(けいそういん)に通じるものがあると著者は言う。また、自然の存在物に関してアリストテレスが抱いた連鎖と充満と推移のイメージは、後世の生物多様性の理解に深遠な影響を及ぼした。

 評者の研究室には旧版のアリストテレス全集が書棚の上に何年もひもとかれないまま静かに鎮座している。本書を読了したいま、ふたたびアリストテレスに手を伸ばそう。2000年あまりの年月を隔てた響き合いは途切れることがない。“彼”は細部に宿る。森夏樹訳。

 ◇Armand Marie Leroi=インペリアル・カレッジ・ロンドンの進化発生生物学教授。著書に『ヒトの変異』。

<注>原題は「THE LAGOON:How Aristotle Invented Science」です。

読売新聞
2020年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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