<東北の本棚>東北雄藩「戊辰」の戦い

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<東北の本棚>東北雄藩「戊辰」の戦い

[レビュアー] 河北新報

 戊辰戦争をテーマに小説を書き続ける郡山市の歴史作家が1986年に出した作品の増補改訂版だ。以前は東軍、西軍の戦いとしていたものを、奥羽越列藩同盟軍、薩摩・長州軍と主体を明確にして書き直した。王政復古クーデターを強行する薩長両藩と、いわれなき賊軍の汚名を着せられた会津藩を擁護して立ち上がった仙台藩、米沢藩、庄内藩など東北雄藩の激しい戦いを描く。
 若き会津藩家老、梶原平馬を主人公に群像劇として物語は進む。鳥羽・伏見の戦い、白河攻防戦、長岡城陥落、鶴ケ城籠城戦と京都、東北、北越に至る一連の戦いが17章にわたり書かれ、戊辰戦争の全貌を知る「入門書」にも適している。
 著者は一貫して敗れた会津藩側の立場から戊辰戦争のドラマを描き続けてきた。今作もその視点は不変だ。幼帝の名を借り天下を奪おうとする革命勢力の薩長。インテリだが優柔不断な最後の将軍徳川慶喜。京都守護職として純粋いちずに尽くしながらも慶喜に翻弄(ほんろう)され悲劇の道を歩む会津藩主松平容保(かたもり)-という図式が強調される。
 東北諸藩が真の王政復古を掲げて大同団結し、薩長土肥の新政府に対抗し得る北日本政権を構想する展開はスリリングだ。同床異夢の列藩同盟が崩壊し、敗れ去る姿は哀愁を誘う。苦境に置かれようとも自らの手で故郷を守り、人間としての誇りを持ち続けようとする「会津魂」にも共感することだろう。
 維新から150年を経てもなお、会津地方などには複雑な感情を引きずる人が少なくない。本著を読めばその背景が理解できるはずだ。
 著者は1935年、仙台市生まれ。東北大卒。福島民報記者や福島中央テレビ勤務を経て作家に。著書に「呪われた明治維新」「斗南藩」など。
 ぱるす出版03(5577)6201=1980円。

河北新報
2020年1月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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