「箱根の関」を舞台にしたはじめての時代小説か? 巧みな構成の時代小説に注目

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せき越えぬ

『せき越えぬ』

著者
西條 奈加 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103003182
発売日
2019/11/20
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

東海道の要衝「箱根の関」が舞台 関所を行き交う人々の悲喜こもごも

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 箱根の関所で弱い者いじめをしていた伴頭を辞職に追い込んだ竹馬の友―武藤一之介、人呼んで武一と騎山市之助、同じく騎市は、なりゆきで関所番士となることに。

 この一巻は、箱根の関そのものを舞台とした、恐らくはじめての時代小説ではあるまいか。

 時は文政年間、関所には、様々な事情を抱えた人間がやってくるが、前述の発端篇となる表題作では、箱根の関に行く途中で、武一は、水筒の水を譲ってくれた武家の女に淡い思慕を抱く。

 続く第二話「氷目付」では、一見、冷徹に見えるも、情理を弁えた横目付・望月嘉門が赴任、罪人捕縛に端倪すべからざる手腕を見せる。

 第三話「涼暮れ撫子」では、関所を通る際、胡乱な女を調べる人見女として、武一の憧れの女、理世がやってくる。この話は、構成も巧みで、敢えて詳述はしないが、関所を越えることを断念した女に対する作中人物の「いや、希乃殿は、関を越えたのだ……己の関をな」の一言がいつまでも耳朶に残る。

 第四話「相撲始末」は、力士の一団に関所を通過させる際に、他の往来を止め、様々な余興を披露させるが、その間に関所で女子を出産してしまった(女の赤ん坊には通行手形が必要となる)女房と亭主をどうやって通過させるか、皆で知恵をしぼる話。

 そして第五話「瓦の州」と第六話「関を越える者」はひとつながりの物語で、文政年間という時代背景を活かし、詮議を受けたシーボルトと交誼を結んでいた騎市の恩師・巴田木米(実は理世の夫で、妻に災いが及ぶことを危惧して離縁した)にどう関所を越えさせるか、というサスペンス横溢の物語。

 作者の周到な筆致は、武一が、自分の理世への思慕など大きな時代の流れに較べれば、ほんの小事であることを悟ったと感じさせるし、最後まで武一を救ける足軽・岡衛吉の活躍も微笑ましい。

新潮社 週刊新潮
2020年1月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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