「食えなきゃ意味がない」「芸術家ではない」立川談四楼も憧れる「職人」たちの生き様

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職人の手

『職人の手』

著者
山﨑真由子 [著]
出版社
KTC中央出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784877588007
発売日
2019/12/02
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

食えなきゃ意味がない――現代に息づく16人の職人たちの物語

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 父が棟梁と言われる大工で、毎朝我が家に多くの職人が集まり、時に普請場について行き、それぞれの職人の道具や仕事ぶりに見惚れました。しかし大工への夢はすぐに潰えます。強度の近眼に加え高所恐怖症だったからで、今、まあ安全な落語家というわけです。

 それでも職人への憧れは持続し、本書にもすぐ飛びつきました。まさに待ち望んでいた一冊で、じっくり写真を見つめ、文章を読み、惜しむようにページをめくり、憧れを再確認したのでした。

 職人が仕事中の写真を撮らせ、奥義を語っています。著者の手柄に他なりません。何度も通い、時にその商品を買い、信頼関係を構築したが故のことで、読者はそれで得心したり驚いたりできるのです。

 ガラスペン、洋傘、料理人、江戸文字、桐たんす、モデリスト、鍋、結桶師、ビヤホール主人、陶工、仏師・彫刻家、クリーニング師、篆刻家、活版印刷家、日本茶農園、歌舞伎床山――著者が惚れ込んだ職人16人、30~90代の物語です。

 私に近いのは江戸文字で、寄席文字の橘右之吉氏が紹介されていますが、今回初めて知ることも多く、氏が自慢話をしない人だということに思い至ります。

 ビヤホール主人は神保町の「ランチョン」の当代主人で、いやここの生ビールは旨いのです。ああ、ビールとともにカキフライが目に浮かんできてたまりません。

 室町時代から桶は“結物”と呼ばれ、それを作る職人を“結桶師”と言うのも今回知りました。紹介される桶栄の桶が「樹齢300年以上、天然の木曾椹」のみで作られることも。

「人の手にしか生み出せないもの」があるわけですが、本書は現代における多様な「職人の生き方」にもスポットを当てていて、大いに示唆的です。「芸術家ではない」「食えなきゃ意味がない」等の言葉が深く心に残ります。

新潮社 週刊新潮
2020年1月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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