『在野研究ビギナーズ』
書籍情報:openBD
「学ぶ」の意味を改めて捉え直す在野研究者たちの生活と実践
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
「間口は広くなったのに出口がない」。これは大学教員として働く私の知人が、かつて大学院の現状にこぼした言葉。進学率が増加した一方、大学側が準備できるポストの空きは圧倒的に足りていないという厳しい現実があるからだ。
そんな悩める学究の徒にとって心強いコンパスとなりうる一冊だ。読者投票等によってランキングが決定する「紀伊國屋じんぶん大賞2020」でも第3位と大健闘を見せ、現在3刷1万2000部。全体的に発行部数が減少傾向にある人文書というジャンルに新風を吹き込んでいる。
本書は大学のような機関に所属せずに「研究」を続けている15人の書き手が、その実践のありようについて各々の体験と方法を語った論集だ。そもそもは「“大学や大学院を出た後も学問を続けたい”という意向を持ちながら不安を抱えている学生たちへ向けて企画されたものだった」と担当編集者は語る。
「装丁はソフトカバーを採用し、シンプルなデザインに仕上げました。抽象的な啓蒙書ではなく、読者の背中を実際に押してくれるような、実用書に近い本をイメージしてもらいたかったんです」
結果、発売前の宣伝ツイートの時点で大きな反響を呼び、初版部数を当初の予定より大幅に増やすことに。発売後はさらに勢いを増し、わずか1週間で重版決定。本書の刊行と連動したフェアでは他の本も売上を伸ばした。予想を上回る事態の裏には、従来うまく可視化されてこなかった層の存在がある。
「友人に、警備員の仕事で生計をたてながら自分の好きな研究を続けている人がいるんですが、彼がその仕事を選んだ理由の一つは、“仕事中も頭の中は自由だから”というんです。そういう人たちは表に出るような機関に属していないだけで、実際はそれぞれに面白いことを追究して日々発見を繰り返している。その営みにスポットを当てることで、読者の方々の探究心にある種の出口を与えられたのだとしたら嬉しいです」(同)