スピノザ<触発の思考>…浅野俊哉著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

スピノザ 〈触発の思考〉

『スピノザ 〈触発の思考〉』

著者
浅野 俊哉 [著]
出版社
明石書店
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784750349114
発売日
2019/11/05
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

スピノザ<触発の思考>…浅野俊哉著

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 スピノザはいつも新鮮な哲学者だ。汎神論(はんしんろん)、無神論、唯物論など、様々な解釈が与えられてきた。彼はユダヤ的伝統からもキリスト教社会からも隔絶した思想を展開した。その考えは思想史上の「異物」として紹介されてきた。だが、今でも多くの発見と気づきを与えてくれる。

 著者は、スピノザの政治哲学に視座を据え、『エチカ』中心でしか捉えない誤りを強調する。なるほど、「永遠の相の下に」物事を見、「神即自然」を基本とすると政治哲学に目が届きにくくなる。

 本書では、軽視されてきた政治学的側面からスピノザが読み解かれる。ニーチェ、レオ・シュトラウス、アドルノなど、第二次大戦前後に活躍した思想家を中心に七人のスピノザ論が紹介されている。

 スピノザの思想は、「そこに姿を映した者が、自らの歪(ゆが)みや偏り、あるいは秘してきたものを大写しで見させられる、精巧に磨き上げられた水晶玉」だと著者は述べる。

 彼らの見るスピノザは様々であり、彼らのスピノザ解釈そのものが彼らの写し絵になっている。本書では、スピノザの政治思想が紹介されるとともに、様々なスピノザ理解を通しての政治的思想の姿が現れてくる。三〇〇年前のスピノザが多面的に輝いてくる。

 多くの政治哲学者達(たち)が、スピノザを一部分評価しながらも、乗り越えられるべき思想家として整理してきた。自分の思想の立ち位置を確認するための基準点になっている。

 シュトラウスとスピノザの関係が特に面白い。ユダヤの伝統に根ざすシュトラウスはスピノザを激しく弾劾(だんがい)する。シュトラウスは、「公教的教え」と「秘教的教え」という二重の意味の戦略を重視し、二枚舌、「高貴なる嘘(うそ)」こそ政治の鍵だと考えた。貴族制と民主制など、シュトラウスとスピノザは様々に対立する様子がスリリングに描写されている。スピノザの多面性とその魅力が浮かび上がる本だ。

 ◇あさの・としや=1962年生まれ。関東学院大学大学院法学研究科教授。専門は政治哲学、社会思想史。

読売新聞
2020年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加