東ドイツ史 1945-1990…ウルリヒ・メーラート著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

東ドイツ史1945-1990

『東ドイツ史1945-1990』

著者
ウルリヒ・メーラート [著]/伊豆田 俊輔 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560097335
発売日
2019/11/26
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

東ドイツ史 1945-1990…ウルリヒ・メーラート著

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 30年前、歴史のうねりのなか一晩で世界から忽然(こつぜん)と消えた国家――東ドイツ。本書はその誕生から消滅までを辿(たど)った通史だ。

 学生時代、ベルリンの壁崩壊直後の東欧を旅した私にとって、混迷を極める政治と対照的に生真面目な市民――「東側陣営」のなかでも、独特な不安と落ち着きがない交ぜになった東ドイツの記憶は今も鮮明だ。

 とはいえ、多くの読者には、本書に登場する人物も組織もなじみがなく、ちりばめられた社会主義的用語は「死語」といえる。

 わずか40年の命脈しか保てなかったソ連の衛星国家――そんな国の歴史を知って何の役に立つのか?――と思うのも当然だ。

 しかし、東ドイツはどのようにして生まれたのかを探れば、明確なビジョンを打ち出せなかったソ連の存在が浮かび上がる。これは同じ分断国家北朝鮮のケースと極めて似ていて、北朝鮮を理解する上でも有益な視点を与えてくれる。

 また、国家と国民との関係も弾圧と抵抗といった単純なものではないことを教えてくれる。

 悪名高いベルリンの壁が建設された後、意外なことに市民は経済発展による慎ましい豊かさを享受、体制に順応していった。この飴(あめ)(社会保障)と鞭(むち)(秘密警察)を巧みに絡ませた政策は、安易な飴作りが財政悪化をもたらし、高まる消費欲求に応えられなくなって破綻、市民の離反を招いたのは何とも皮肉だ。

 東ドイツの歴史は、最初から失敗が目に見えていたわけではない。その結末を世界の誰も予想できなかった。本書は、ジグザグコースを辿りながら東ドイツが消滅していく様を淡々と描き出している。

 「生産性向上」という言葉だけの経済政策、バラマキによる財政悪化、特権化する官僚、世界の動きについて行けない指導層……国家が衰退する要素のオンパレード。読者は、どこか今の日本と似た姿に気づくかもしれない。伊豆田俊輔訳。

 ◇Ulrich Mahlert=ドイツの現代史研究者。東独・ドイツ社会主義統一党の歴史、党内粛清の歴史などが専門。

 

<注>原題は「Kleine Geschichte der DDR」です。

読売新聞
2020年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加