どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝 柳家小三治著

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どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝

『どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝』

著者
柳家 小三治 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784000613798
発売日
2019/12/19
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝 柳家小三治著

[レビュアー] 奥山景布子(作家)

◆本音で語る珠玉の小言集

 噺家(はなしか)として三人目の人間国宝(重要無形文化財保持者)である柳家小三治の自伝。『どこからお話ししましょうか』というタイトルが、落語ファンにはまずうれしい。

 読後最初の感想を言うなら「ここまでお話しくださるのですね」だろうか。

 著者はマクラ(本題に入る前の導入部分)の長い噺家としても知られる。「マクラをたっぷりやったかと思ったら、あとは小言念仏(こごとねんぶつ)をすっとやって、さっといなくなったよ」。寄席にせよホール落語にせよ、その高座について、うれしそうに得意気に、こう語るファンは多い。噺と同じくらい、著者のマクラはファンに愛されているのだ。

 著者のマクラが愛されるのは、通り一遍(いっぺん)の噺の導入ではなく、まさに「いまここ」にいる著者の心持ちが、平易かつ、筋道だった本音の言葉で惜しみなく披瀝(ひれき)されることによるものと思う。

 本作の魅力も、まさにそこにある。

 両親や生い立ち、初恋、噺家になったいきさつ、音楽やバイク、俳句などの趣味、そして、三遊亭圓生(えんしょう)(六代目)や桂文楽(八代目)、三笑亭可楽(八代目)といった先達の芸への思い、師匠柳家小さん(五代目)とのやりとりなど、その時々の著者の心持ちが本音で再現される。その筆はさらに、古今亭志ん朝や立川談志といった同世代や、自分の弟子たちにまで及ぶ。

 どの話題においても、時に冷徹でありつつ、しかし根底に温かさを失わない筆致は、著者の数ある得意噺(おはこ)の一つ、「小言念仏」の語り口を連想させる。まさに珠玉の小言集と言えよう。

 平易な日常の言葉で芸の捉え方やそこに至る心構えについて語るこの小言集には、令和の「風姿花伝(ふうしかでん)」とも言うべき風格さえ漂うのだが、そこはやはり噺家。「秘すれば花」とは決して言わない。

 <落語をおもしろくやるコツ。「秘中の秘」ですねえ。でも、誰に言ってもいいんですよ>

 このコツとは何なのか。気になった方は、ぜひ実際に手に取って確かめてほしい。

(岩波書店・1650円)

 1939年生まれ。噺家。59年入門、69年真打ち昇進、十代目柳家小三治を襲名。落語協会顧問。

◆もう1冊 

 柳家小さん、川戸貞吉著『五代目柳家小さん 芸談』(冬青社)

中日新聞 東京新聞
2020年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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