『その聴き方では、部下は動きません。』
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その接し方で部下は育つ? ビジネスに不可欠な「傾聴」の力
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『その聴き方では、部下は動きません』(岩松正史 著、朝日新聞出版)の著者は心理カウンセラーであり、15年にわたって「傾聴」に関するビジネスを育ててきた会社の経営者。
そのような立場から、「傾聴」こそがビジネスに必要不可欠な要素であると主張しています。
理由は、傾聴が「気持ちを聴く」手段だから。
ちなみに傾聴とは、相手との共通点を探して仲よくなることでも、ましてや相手を無視することでもなく、「そのまま受け止めて支える」ための聴き方なのだとか。
顧客満足度も、クレーム対応も、気持ちが解決しないと仕事はうまくいきません。
(中略)満足も不満もすべて理屈ではなく、人間の最終判断基準はいtも「気持ち」なのです。
(中略) そこで提案したいのが、「気持ちを解決する」方法を持つことです。 人は気持ちが解決されればよい行動を起こし、気持ちが解決されなければ動きません。 これは、いまも昔も変わらない、不変の原則です。(「はじめに」より)
いいリーダーは必ず、「人の気持ちを解決する術」を持っているもの。また、人の気持ちに関われるリーダーは、部下からの信頼も得やすくなるもの。
だからこそ、本書のテーマである「傾聴」が、解決すべき「気持ち」の理解を得意とした、唯一無二のコミュニケーションスキルだというのです。
こうした考え方をベースとした本書の第2章「部下が自分から動きたくなる聴き方」のなかから、すぐに応用できそうな2つの要点を抜き出してみましょう。
聴いた内容を「3つ」に分ける
脳がすぐに理解できるのは「3つ」までだとよく言われます。
同じように他人の話を聴くときにも、3つを意識すると聴きやすくなるのだそうです。
聴いた内容を理解したいときや、人に何かを伝えたいときも、3つ以内に収めて進めるとうまくいきます。
情報の量が多すぎるとき、いろいろな要素が複雑に絡み合っているとき、1つの要素がとてつもなく大きな塊に見えて手のつけにくいときは、全体をまず3つに分けてみましょう。(66~67ページより)
1つの塊を3つにすると、それぞれの特徴の違いがわかってきて、それぞれの塊でなにが重要であるかがわかってくるもの。
そして最初の3つをきちんと理解できたら、その中身をまた細分化し、理解を深めていけばいいという考え方です。(65ページより)
「2つ」のものをくらべて理解する
分ける最小単位は、二分割で「2つ」。1つのものを2つに分ける、あるいは、1つしかないものは、あえて2つに増やして比較する。
そうすると、比較しやすくなり、理解しやすくもなるもの。それは、人についてもあてはまるといいます。
「2人は違う人である」ということをちゃんと理解できれば、感情的なトラブルが減ることになるわけです。「相手は自分と同じ考えを持つべきだ」と思ったとしたら、なにも解決しないかもしれません。
しかし「相手は自分とは違う価値観を持った人間だ」ということがわかると、相手の気持ちがおのずとわかるようになるということ。
分けられるから、よくわかるのです。 分けられるから、「共感」もできるのです。
話を聴いていて、わからないなと思ったら、「2つ」を思い出してください。
2つに分けられないか、比較する対象がないか、考えてみるのです。
(69ページより)
2つに分けたり、2つを比較することで理解が深まるということ。なお比較の仕方には「類比」と「対比」があるそうです。
・類比……共通点で理解を深める
・対比……相違点で理解を深める
(70ページより)
2つのものを比較し、共通点と相違点の確認ができることで理解が深まるということ。
<類比の例>
・出身地が同じ
・子どもの名前が同じ
・趣味が同じ
・住んでいる街が同じ
・嫌いな食べ物が同じ
(70~71ページより)
共通点がると仲間だと感じ、うれしくなるもの。また「自分と同じ」ということがインパクトとなり、記憶されやすくなるわけです。
<対比の例>
・白と黒(黄色と黒)
・しょっぱい塩と、スイカなどの甘さを引き立たせる塩
・猛暑に飲むビールの味と、真冬に飲むビールの味
・厳しい上司と、優しい上司
(71ページ)
このように類比とは逆に、「違いがある」ことでインパクトが残るのが対比。対比することで違いが浮き彫りになり、それぞれの特徴が明確に理解できるようになるもの。
人間は本能的に、自分が持っている経験と違うことは危険だと感じるといわれているそうです。そこで有効なのが、2つのものを対比させること。
そうすれば違いを注意深く観察することになり、結果的には理解が深まるというわけです。(68ページより)
心理学やカウンセリングなどの専門的な部分はできるだけ割愛し、「部下の話をどう聴くか」についての解説が中心になった構成。
そのためわかりやすく、すぐに試してみることができるはず。
そこで本書を利用して、“部下を動かすための聴き方”を身につけてみてはいかがでしょうか?
Photo: 印南敦史
Source: 朝日新聞出版