【聞きたい。】柏久さん 『李登輝の偉業と西田哲学 台湾の父を思う』

インタビュー

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【聞きたい。】柏久さん 『李登輝の偉業と西田哲学 台湾の父を思う』

[文] 河崎真澄

 ■やまとごころ、日本人とは何か


柏久さん

 国際社会で台湾への関心が高まっている。脅威となりつつある中国への対抗軸として、民主主義の価値観を共有している台湾の重要性が、認識され始めた。

 ただ、台湾の民主社会は一夜にしてできたのではない。李登輝氏が1988年から12年間の総統時代、6回の憲法改正や総統直接選実施で成し遂げた。「静かなる革命」と称される。

 柏久さんは、その偉業を支えた李氏の政治思想の根底に、「西田幾多郎の哲学がある」と感じていた。

 日本統治時代の台湾で大正12(1923)年1月に生まれ、旧制の台北高を経て、京都帝大で農業経済学を専攻した李氏。自ら、「22歳まで日本人だった」という李氏の京都時代の恩師は、柏さんの父親、柏祐賢(すけかた)氏だった。

 京大教授だった父の薫陶を受けて、農業経済学で自分も京大教授になった柏さんからみれば、李氏はいわば「兄弟子」にあたる。

 西田は、大正時代に京都帝大で教えた日本を代表する哲学者の一人。京都で西田が散歩した道は今も「哲学の道」と親しまれる。

 柏さんは「政治家として矛盾する理想と現実をどう結び付け、解決策を探していくか。李登輝先生の民主化プロセスを振り返ると自分や父、京都に脈々と流れる西田哲学の実践、と受け止められる」と話した。

 日本の敗戦で、蒋介石が率いる中国国民党が戦後の台湾を支配し、強権弾圧と皇帝政治を持ち込んだ。だが李氏は、国民党の内側から権力構造を粘り強く変えて、民主化を勝ち取る。

 柏さんは「李登輝先生と父、西田幾多郎の3人はいずれも、長男が夭折(ようせつ)した悲しみをもつ」とも話す。

 長男の死、という極めて重い事実を背負って生きる3人の父親像にも、柏さんは嗅覚を研ぎ澄ました。

 李氏は、「『やまとごころ』を思い出せ」と日本人を叱咤(しった)する。やまとごころとは何か。日本人とはいったい何者か。柏さんは本書で父と李氏、西田哲学を通じて、改めて考えた。(産経新聞出版・1500円+税)

 河崎真澄

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【プロフィル】柏久

 かしわ・ひさし 昭和22年、京都生まれ。京大農学部卒。農学博士。元京大教授。著書に「農業経済学の展開過程」(日本経済評論社)など。

産経新聞
2020年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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