<東北の本棚>苦境にもくじけず前へ

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オオカミが来た朝

『オオカミが来た朝』

著者
ジュディス・クラーク [著]/ふなとよし子 [訳]
出版社
株式会社 福音館書店
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784834083644
発売日
2019/09/11
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>苦境にもくじけず前へ

[レビュアー] 河北新報

 物語は1935年、大不況下のオーストラリアを舞台に始まる。懸命に働いた父親が急死し、14歳の内気なケニーは6人家族を養うため学校を辞め、工場へ仕事を探しに行く。真冬の早朝、自転車をこぐ身は冷え切り、たき火に当たろうと入り込んだ荒地で、あろうことか、少年殺しの犯人に出くわしてしまう。
 死の恐怖に直面した瞬間、ケニーは気付く。自分の人見知りも、人から笑われている間抜けな入れ歯も、人生においては取るに足らないこと。大事なのは生きて、仕事を見つけ、約束通り、母の待つ台所に戻ることだと。
 窮地を救ったのは、大嫌いな授業で覚えさせられた詩の一節だった。大人になり家庭を持ったケニーは、子どもたちに慈愛を込めて語る。「先のことは分からない。くじけず、前に進むんだ」
 ケニーからひ孫まで4世代の、多感で、成長する力に満ちた子ども時代を描く。貧困、移民、戦争、読字障害、極度の心配性、両親の不仲など、あらがえない環境にあっても自分を励まし進んでいく姿を通じ、ヤングアダルト世代にエールを送る。本書はオーストラリア児童図書賞を受賞。
 翻訳のふなとよし子さんは仙台市在住。中高生向け良書を多く手掛け、「9番教室のなぞ」「楽しいスケート遠足」などの訳書がある。
 福音館書店03(3942)1226=1760円。

河北新報
2020年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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