東京五輪のあとがヤバい? 国家破綻をリアルに描いた小説が連続ドラマ化! プロデューサーに作品の魅力を聞いた

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オペレーションZ

『オペレーションZ』

著者
真山仁 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784101390536
発売日
2020/02/26
価格
1,045円(税込)

真山仁の小説はなぜ「ドラマチック」なのか

[文] 新潮社


「連続ドラマW オペレーションZ ~日本破滅、待ったなし~」3月15日(日)よりWOWOWプライムにて放送スタート

真山仁の小説『オペレーションZ』(新潮文庫刊)が連続ドラマとなって放送される。

国と地方の基礎的財政収支は2025年度に約3.6兆円の赤字になるとの試算が示されたばかりだが、赤字幅はほんの半年前の観測よりもさらに拡大している。東京オリンピック後に本当の危機が訪れるというアナリストも多い。今作はその財政赤字を劇的に削減すべく、国家予算を半減させようと奮闘する総理大臣と財務官僚たちの物語だ。デフォルトが現実化する社会と政治を描いたシュミレーション小説でもある。

大ヒットシリーズとなった誰もが知る『ハゲタカ』シリーズをはじめとして、検察庁を舞台にした『売国』『標的』など、真山氏の作品はコンスタントに映像化されるが、その魅力は何なのか? 『オペレーションZ』の連続ドラマ化をプロデュースし、過去には月9ドラマ『バスストップ』や『信長協奏曲』『ようこそ、わが家へ』なども手掛けてきた羽鳥健一氏に聞いた。(ドラマはWOWOWプライムにて3月15日から毎週日曜日10時より放送。第1話無料放送、全6話)

 ***

――なぜこの作品を映像化しようと考えたのでしょうか。

羽鳥 日本に借金が山積していることは皆わかってはいるものの、「何とかなるんだろう」「誰かが何とかしてくれる」「いつかまた景気は回復していくのだろう」と楽観的に考えている人たちが多数いると思います。一方で「この国の行く末は本当に大丈夫なのだろうか」と考えている人たちがたくさんいるのも事実です。もしかすると20代や30代の若者たちの方が、より強くその考えを抱いているかもしれませんね。フィクションとノンフィクションが綯交ぜになった感覚で一気読みしたのですが、映像化することで――つまり実際に役者の皆さんに様々なやり取りや台詞を演じていただくことで――この小説がよりリアリティを醸し出すとともに、今までボンヤリしていたことが視聴者の目の前で具体化されことで、視聴者の方々がこの国の将来のために、それぞれの生活のなかでそれぞれの具体策を実行していく一石になるのではないかと思いました。それぐらい魅力的な原作でした。僕はずっとフジテレビでドラマを作っていたのですが(もちろん有意義に)、タブーを恐れずに社会派ドラマを作り続けているWOWOWでドラマを作ってみたいと思って出向させてもらったという個人的な経緯もあります。こういう作品こそWOWOWでしか作れないと、今あらためて実感しています。

 真山さんの作品は『ハゲタカ』はもちろん、WOWOWで映像化された『マグマ』、そしてテレビ東京が『売国』『標的』を映像化した『巨悪は眠らない』シリーズも観ていましたが、真山作品の最大の魅力は、綿密な取材に裏付けられている「圧倒的なリアリティ」がありつつ、読者にわかりやすく提示する「物語の力」があるところだと思います。そして主人公をはじめとした登場人物たちのキャラクターの魅力。そのすべてが組み合わされて、「熱量」として読者をぐいぐいと前に進ませるパワーになっているのだと思います。そしてその「熱量」がテレビや映画の作り手たちに伝播したときに「映像化したい」という思いが駆り立てられるのではないでしょうか。

――『オペレーションZ』のテーマである国家財政や財政破綻というものは目に見えにくいですし、重たいテーマだと思いますが、映像化するのにとまどいはありませんでしたか?

羽鳥 それはまったくありませんでした。むしろ「財政破綻」という重たいテーマだからこそ、「政治経済エンターテインメント・ドラマ」として具現化してみたいという、「使命感」みたいなものを感じたくらいです。真山さんがこの小説を書いた理由を語っているインタビューがあるんですが、その一言一句も、僕の背中を押してくれました。一方でプロット(全体の構成案)を作っているときに脚本家や監督、制作会社のプロデューサーたちと苦労したのは、聞いたことはあるけれど詳しくその意味や内容を理解し切っているとは言えない「デフォルト(国家破綻)」や「国債」、「空売り」といった言葉の意味や仕組みをどうやって台本に落とし込んでいくのか、それをどうやって視聴者にわかりやすく映像化するのかということでした。ぼくらが作るのは教育番組ではなく、エンターテインメント・ドラマですから。でも脚本家や監督だけでなくスタッフやキャストの皆さんとこのドラマの持つ「使命感」そして「熱量」を共有することができたおかげで、作品として仕上げることができると信じていました。

――本作の主人公である江島隆盛総理は「歳出半減」という劇的な政策を打ち出し、「猛牛」に例えられる政治家ですが、その魅力とは何でしょうか?

羽鳥 日本の「行政府の長」である内閣総理大臣たる者、最優先事項として「日本の将来のビジョン、そしてそのためにいま何をするべきか」いうことを常に言葉にして伝えてほしいし、行動してもらいたいですよね。直近に対応すべき問題が山積して大変なことは国民だって百も承知です。そんな中でも将来のために有言実行していくのが総理大臣であるべきだし、政治家や官僚とタッグを組んで舵取りをしてほしい。江島総理はこの作品でそれを実行しています。江島の魅力はそれに尽きる。草刈正雄さんに演じていただくことになったのは、草刈さんがこれまでの作品で伝えてきた、何とも言えない独特の「熱量」を感じていたからです。草刈さんにご快諾いただいたときは、これで作品の「熱量」が上がると確信しました。それに「猛牛」と言われながらも、同時に洗練された方が総理大臣を務めているって、国民にとって誇らしくないですか(笑)。

――本作では財務官僚たちの奮闘も読みどころです。ただ、財政健全化というとすぐに「財務官僚が自らの権益を拡大するためだ」という陰謀論めいた話が出てきて、主役級には据えにくいところがあったのでは?

羽鳥 本作の主人公の一人である財務官僚の周防篤志の魅力は、総理の考えに理解を示す一方で、庶民の感覚を併せ持っていて、「オペレーションZ」を遂行していくことに対する戸惑いが見え隠れするところだと思っています。そして、それでも公僕として身を粉にして働くけなげな姿。ちょっとアバンギャルドで破天荒なキャラクターである大学の准教授・宮城慧や自身の妻の率直な言葉にきちんと耳を傾ける謙虚さ。「オペレーションZ」を周知させるためのアイデア力――。こんな部下がいたら可愛くてしょうがないでしょうし、信頼できますよね。

 この役を溝端淳平さんに演じてもらうことにしたのは、小説を読んでいるときに溝端さんをイメージしながら読んでいたからです。実際にお会いして感心してしまったのは、このドラマを作ることの「使命感」と「難しさ」を深く理解して下さっていることでした。あとは草刈さんと同じく「熱量」、それも圧倒的な「熱量」があったこと。草刈さんと溝端さん、そして同じ財務官僚であり、「オペレーションZ」の主要メンバーでもある中小路流美を演じる高橋メアリージュンさん、宮城役を演じる宅間孝行さん、それぞれの演者さんたちの「熱量」の化学反応が、このドラマの牽引となっていると思っています。

 あらためて思いますが、真山さんの作品は「熱量」がキーワードであり、読者、視聴者、それこそ映像の作り手や演者の皆さんに自然とパワーを与えているのかもしれませんね。小説もドラマも、結局は「熱量」の掛け算です。読者、視聴者、映像の作り手や演者の気持ちがひとつになり、自然とパワーを与えて同じ方向を向かせるのもまた、「熱量」ですから。

――財政健全化を正面から打ち出す政治家はなかなか現れないですが、メディアの無理解や反対ということもあるかもしれません。現在の社会において、メディアの役割をどのようにお考えでしょうか?

羽鳥 メディアは財政の問題を理解していないのではなく、頻発するスキャンダラスな政治ネタを追いかけることを優先してしまっているだけです。テレビ局であれば良い「視聴率」をとること、新聞や出版社であれば「販売部数」を増やすことが最優先事項だと思います。スポンサーや視聴者のコンプライアンス意識に対する「忖度」があることも否定しません。これは企業を運営していくうえで当然のこと。ただ、インターネットも含めたメディアの役割は、これからの時代もいっそう重要だと思いますし、責任は重大だと思っています。「視聴率」や「販売部数」の低下が叫ばれて久しいですが、若い世代はちゃんとテレビをインターネットで見ています。新聞や雑誌もインターネットを介して読んでいる。一方でSNSでは真偽の定かでないメッセージが飛び交っていて、それを本当のことだと信用している人が増えているのも事実です。メディアを生業としている人々は、今一度深く深呼吸して、世の中を見渡さないといけないタイミングなのだと思います。今年はオリンピックが東京にやってきて、大変な盛り上がりを見せるでしょう。「でもその後どうなるの? 大丈夫なのニッポンは?」と自分に言い聞かせています。

 話は変わりますが、WOWOWの会員の方々、特にドラマが好きな方々からは、ジャンルとしては社会派ドラマやミステリー・サスペンスが望まれています。特に日曜日の夜10時の枠は社会派のドラマを編成し続けており、「次はどんなドラマを見せてくれるのだろう」と会員の方々が「構えて」下さっていることを、出向して実感しました。そういった下地があって、「社会的事件・出来事」に興味がある方々が多くいらっしゃる、そしてそういう方々にダイレクトにメッセージを送り届けることができるのがWOWOWの強みだと思います。

――8パーセントから10パーセントへ消費増税されたなかで今回のドラマが放送されるわけですが、このドラマを通じて日本社会に投げかけたいメッセージをお願いします。

羽鳥 今回の消費税増税による増収分はすべて社会保障費に充当され、待機児童の解消や高等教育の無償化、介護保険料の軽減などなどの施策のために使われることになっています。有効利用してほしいものです。ただし、財政健全化に向かっているかというと、そうではありません。

 原作から若干アレンジさせて脚本に落とし込んだ、周防の妻の台詞を紹介します。――「つまり、1億円以上の借金があるのに、500万の年収で、年間1000万以上使う暮らしをやめない人、ってことか……結論。そんなダメ亭主とは、即離婚よ」日本の現状は、この言葉に集約されています。

 この作品は数年後に本当に起こりうるかもしれない日本国家の破滅を回避するためにどうしたらいいのかをテーマとした、政治経済エンターテインメントです。社会保障費の問題にも当然切り込んでいきます。これから大きな舵取りをしなければならないのは政治家、特に総理大臣であり、加えて官僚の皆さんですが、一方で政治家を選択するのは選挙権を持つ我々国民です。当たり前のことですが国民一人一人の責任は重いのです。この原作を読んだ後にあらためて実感しました。ドラマとしてはエンターテインメント作品として紡いでいくことで、物語を楽しんでいただきながらも、若い世代も含めた視聴者の方々が「子供たち、孫たち、そして日本の将来のために何ができるのか」ということを考えたり、一歩を踏み出す一石になってほしい、そう願って止みませんし、そうなることを信じています。原作がどう映像化されるのか、是非ご期待ください。

新潮社
2020年2月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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