「脱プラは温暖化対策そのもの。災害を増やしているのは私たちの暮らし方」NEPプロデューサー堅達京子が語る

インタビュー

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脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流

『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』

著者
堅達京子 [著]/BS1スペシャル取材班 [著]
出版社
山と渓谷社
ISBN
9784635310413
発売日
2020/01/16
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

「脱プラは温暖化対策そのもの。災害を増やしているのは私たちの暮らし方」NEPプロデューサー堅達京子が語る

[文] 岡山泰史(山と溪谷社・自然図書編集部)

 いま「脱プラスチック」というキーワードが注目を集めています。ストローが紙に変わったり、レジ袋が有料化するなど、暮らしの中で使い捨てプラスチックをできるだけ減らす動きです。NHK BS1スペシャルで放送された番組『“脱プラスチック”への挑戦』も大きな反響を呼びました。この番組をプロデュースした堅達京子さんが、番組では伝えきれなかった話や、番組放送後の世界の動き、そして温暖化との密接な関係までをわかりやすく書き下ろした新刊『脱プラスチックへの挑戦』が山と溪谷社から発売されました。環境がテーマの番組づくりに積極的に取り組み続けてきたプロデューサーが、どのような思いでこの本を書いたのかをお聞きしました。(インタビュアー=岡山泰史)

脱プラは温暖化対策そのもの

――プラスチック問題に注目したきっかけを教えてください。

 プラ問題については、2016年に行なわれたダボス会議で、2050年までに、海のプラごみの量が魚の量を上回るという衝撃的な予測が出たり、カメの鼻の穴にプラスチックのストローが刺さる映像が話題になるなど、社会的に注目が高まっていたのですが、「脱プラ」は単に海の生き物がかわいそうという話ではありません。実は欧米では、プラ問題は気候変動や温暖化対策の主要なテーマだという認識があるのです。
 持続可能な地球をつくっていくうえでは、2つの話はつながっているし、大事な問題なんだということを、ぜひ知ってもらいたいと思って番組を企画しました。


プラスチックを食べているのは鳥や魚だけでなく、私たち人間も同じだ

――帯に「あなたは毎週5グラムのプラスチックを食べている」という非常に強いメッセージがありますが、そこにはどんな危険性があるのですか?

 海のプラごみは紫外線や波で劣化して、5ミリ以下のマイクロプラスチックになり、魚や海塩、あるいは雨や大気を通して私たちの体内に取り込まれているというWWF(世界自然保護基金)の報告書があります。研究によると、塩やペットボトルの水の9割にマイクロプラスチックが含まれていただけでなく、日本人を含む人間の大便からも検出されています。
 「予防原則」という言葉があります。プラスチックを、魚やウミガメやサンゴだけでなく、人間も食べていることについては、まだまだ解明されていないことが多く、研究も途上です。
 でも、わからないから、このままでいいわけじゃない。わからないものに対しては、最大限にアンテナを張って、あとで後悔しないような対策を今のうちから取っておくことがとても大事です。
 今はまだ人間への影響は報告されていませんが、このままプラスチックの量が増えていくと、いつどのようにその影響が表れるかわからない。そして、わかってからでは遅いのです。

――マイクロプラスチックが生態系の中で濃縮しているという話が衝撃的でした。

 プランクトンがマイクロプラスチックを取り込み、それを小魚が食べ、さらに大きな魚や鳥が食べるという食物連鎖の仕組みがここでも働いています。今わかっているだけでも、マイクロプラスチックを経由してPCBなどの有害物質が、二枚貝の生殖腺に移行したという報告があります。また海鳥でもマイクロプラスチック由来の化学物質が内臓に蓄積しています(いずれも実験室下の報告)。つまりマイクロプラスチックが海の汚染物質の「運び屋」になっている可能性があるのです。
 実は過去の工場廃液などの有害物質は、今も海中に溜まっています。それをマイクロプラスチックが吸着し、魚や鳥だけでなく人間にまで運んでいるとしたら…。マイクロプラスチックそのものは排出されるけれど、有害物質は体内にとどまる可能性があります。その影響はいつ現れてもおかしくないという予防原則のもとで、今後の対策を進めていく必要があります。


環境NPOのThe Ocean Cleanupは太平洋のプラごみの大量回収に成功

取り組みはまだ始まったばかり

――オランダの社会起業家ボイヤン・スラットさんがオーシャン・クリーンアップを立ち上げ、太平洋ごみベルトからプラごみを集める姿はNHKの番組でも取り上げていましたね。世界各地でも海や川でのプラごみ回収が始まっています。

 みなさん回収しようと頑張っていますが、出てしまったものを回収するには限界があります。プラスチックについては、「シングルユース」つまり一度使って終わりのものを減らすことが大事です。さらに、回収して再利用・再資源化がどれだけできるかも大切です。
 プラスチックで成り立っている生活や産業があるなか、代替の効かないプラは使わざるを得ません。プラを使うほうがトータル的にはエネルギー使用量が減る場合もあります。だからこそ、まずは使い捨てプラを減らす必要があるのです。それが、私が脱プラへの「挑戦」という言葉に込めた思いです。
 ビジネス界も大きく動き出しています。レジ袋やストローの廃止だけでなく、化繊の服やペットボトルなどの「プラごみ」を再生させていく「サーキュラーエコノミー(循環経済)」的な仕組みが必要ですよね。みんなで知恵を出せば、プラごみをもっと無くせるアイデアがあると思うのです。まずは使い捨てレジ袋をやめてエコバッグ、ペットボトルを減らしてマイ水筒に変える。一見、小さなことでも大きな効果があるのですから。

――先進的な企業の取り組みも多数、本の中で紹介されています。

 消費者が変わると企業も変わるのです。企業の力が大きいと思われがちですが、実は一番影響力があるのは私たち市民です。
 使い捨てプラスチックを減らすことは、地球温暖化を食い止めることにもつながります。EUの試算では、脱プラスチックなどの戦略によって2~4%温室効果ガスを削減できます。脱プラを通じた一人一人の行動が、温暖化を防ぐことになるのです。そのつながりをぜひ知っていただきたいですね。

――SDGsも浸透しつつありますが、「脱プラ」は具体的でわかりやすい目標ですね。

 SDGsの「S」は「Sustainable」つまり持続可能性で、それがすべての価値の基準です。17の目標がありますが、「SDGsのウエディングケーキ」の図にもあるように、社会や経済の土台・根幹にあるのが「環境」です。気候変動、水問題、生物多様性、こういった環境が安定して初めて、社会や経済が成り立ち、成長できるのです。


17の分野にわたるSDGsを支えるのは4つの環境関連の目標だ

危機感からの呼びかけ

――去年の台風による被害は甚大で、2018年の西日本豪雨に続く爪痕を残しました。

 安定した気候がなければ、私たちの生活も経済も成り立ちません。新幹線の水没は象徴的でしたが、暮らしの場が奪われ、工場の操業も止まるなど、温暖化による被害は拡大しています。環境が土台であるということを誰もが感じて、「自分ごと」にしてほしいですね。
 プラの問題は、SDGsの12番「つくる責任、つかう責任」に関連していますが、企業と市民が責任をもって、「このまま、大量生産・大量消費の経済でいいんですか?」ということを本気で考える必要があります。市民が取り組み始めたら、企業も変わらざるを得ないのですから。
 「身近にあるレジ袋やペットボトル、ではどうしたらいいんだろう?」と、一人一人が考え始めることで、私たちのライフスタイルや経済システムを見直す契機になります。プラスチックの問題を一つのきっかけとして、地球の限界に気づき、子どもたちの未来を考えてほしいのです。


古着からエタノールを精製、あの「デロリアン」を走らせた企業が注目された

――著名な科学者ヨハン・ロックストローム博士が「これからの10年で地球の未来が決まる」と本の中で述べていました。

 産業革命前と比べ、たった1度平均気温が上がっただけで、これだけの台風被害や大きな惨事が起きています。
 さらに0.5度、地球の平均気温が上がったら、干ばつや山火事、巨大台風などの異常気象が頻発します。それだけでなく、温暖化が加速し、氷床の融解など取り返しのつかない変化がドミノ倒しのように連鎖的に起こるでしょう。ヨハン・ロックストローム博士は、防衛ラインである1.5度を超えて気温上昇が2度に近づくと、ドミノ倒しで灼熱地球になってしまう「スイッチボタン」がいつ押されてもおかしくないと警告しています。
 このままでは、2030年にもその「1.5度」に到達する可能性があります。そして、この機会を逃したら、手遅れになる! そういう意味で今は「ラストチャンス」です。

 急速に、世界は動き始めています。本でも紹介したグレタ・トゥーンベリさんたち若い世代があれだけ怒ったり、行動を起こしているのは、「今なら間に合う!でも、あと少しで手遅れになってしまう」という危機感の表れです。その「ギリギリ感」を知っていただきたい。

――ご自身も危機感を感じて報道していると伺いました。

 10年以上この問題を取材してきましたが、ここ1、2年、「もう時間がない」ということを科学者たちから突きつけられ、本当に強い危機感を感じています。 
 災害を増やしているのは、今の私たちの「暮らし方」であり、産業構造です。プラスチックに象徴される大量生産・大量消費という現代文明のあり方そのものが、台風被害につながっているのです。
 普段はそういうことをあまり考えないかもしれませんが、今がラストチャンスであることをもっと知ってほしい。この本が、地球の危機を考えるきっかけになってもらえれば。そして、ぜひ行動を起こしてほしいと思います。

――インタビューの後で、読者から次々と届くメールの一部を紹介してくれた堅達さん。
プラスチックを扱う会社の社長から、小学校の教員、ご家庭の主婦、企業でCSRを担当する方や社会活動家まで、広く反響を呼んでいるとのこと。本書が持続可能で安全な生活や経済活動のきっかけになることを願うばかりです。

山と溪谷社
2020年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

山と溪谷社

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