野村證券創業者と2代目の「伝記」に見る、投資銀行のスタンダード

レビュー

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事を成すには、狂であれ

『事を成すには、狂であれ』

著者
福井保明 [著]
出版社
プレジデント社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784833423434
発売日
2019/11/30
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

OB証券マンの手による「野村證券」創業者と二代目の“伝記”

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 野村證券は戦前の野村財閥の中核企業だった。本書は、その始祖である初代野村徳七と、立志伝中の二代目野村徳七の生き様を小説調に書き上げた伝記である。株式相場がストーリーの中核にあるから、相場師列伝の一つとも言えるだろう。

 著者は元野村證券。出身者特有の愛憎のバイアスは感じさせるものの、流暢な文章で読者を物語に引き込む力を持っている。読んでいて純粋に面白い。

 二代目徳七は、三つの大きな相場で大勝負に出て財閥を形成する富を蓄積した。明治の日露戦争、大正の第一次世界大戦、そして昭和の金輸出再禁止をはじめとする高橋是清の積極財政を伴う円安政策の三つの歴史的場面である。

 このため、徳七の人生を追うことで明治以降の近代の金融史、特に大阪を中心とする関西の状況を、小説を通じて臨場感を持って理解することができるだろう。

 人情の相場師、徳七の盟友岩本栄之助、当時の新進実業家である阪急電鉄の小林一三なども登場し、読後のさらなる知識欲を掻き立てる。

 野村徳七が普通の相場師と異なるのは、調査を重視したこと。また、株式だけにこだわらずに、公社債の分野でも証券会社としての地歩を固めていったことだろう。

 野村證券の伝統、現代ならばさしずめブラック企業と呼ばれる体質。しかし、よく働かせるが、出来る者には破格の報酬でこれに報いる。これは現代でも投資銀行のグローバル・スタンダードなのだ。

 野村徳七直系の孫、野村明賢氏の二つのインタビューが加工せずにそのままの言葉で要所に挿入されている。これが野村家を包む雰囲気などを伝え、簡潔ながら巧みに物語全体の基調を決定づけている。

 いくつか時代考証上の問題はあるが、細かい話に拘泥する必要はない。この本は成功した一人の相場師の物語として楽しめるだろう。

新潮社 週刊新潮
2020年2月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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