海の地政学 竹田いさみ著

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海の地政学

『海の地政学』

著者
竹田 いさみ [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784121025661
発売日
2019/11/20
価格
990円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

海の地政学 竹田いさみ著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 贅沢(ぜいたく)で濃厚な新書だ。『海の地政学』という題名だが、その内容は「地政学」の枠にとどまらない。地政学の理論家の名前も登場するが、むしろあまり知られていない歴史の背景説明などをめぐる記述に、興味深い観察が数多く盛り込まれている。

 もちろん本書の歴史描写の中心には、海洋覇権をめぐる大国の興亡がある。19世紀までの大英帝国、20世紀以降のアメリカ、そして挑戦者としての21世紀の中国が、ダイナミックに描かれている。

 だが同時に、国連海洋法条約に代表される海の法規範の発展過程なども、克明に描かれている。太平洋戦争中の甚大な商船の犠牲や、現代日本の海上保安庁の役割などについても、目配りがなされている。

 印象深いのは、著者の研究者としての知的な好奇心だ。探究の眼差(まなざ)しが、様々な対象に広がっていく。大英帝国に関する記述では、世界中に海底ケーブルをはりめぐらせたイギリスのインテリジェンスの卓越性へと、話が広がっていく。

 ペリー提督の「黒船」は、当時アメリカで盛んだった捕鯨のための基地を確保するために日本に来たことも語られる。著者は、「アメリカの石油エネルギー産業の興隆をリサーチしていく過程で、一八世紀から一九世紀の捕鯨産業に行き着き、図らずも、一般の教科書にはないペリー提督来日の本当の目的を知ることになった」と説明する。

 「大陸棚」の概念を劇的に導入した1945年のアメリカのトルーマン宣言は、上院を通じて大陸棚の開発権を握ろうとするカリフォルニアなどの州の動きに対抗して、連邦政府の管轄権を確保するための行政命令だった、といった指摘も、興味深い。

 地政学の理論家たちは、地理的環境が、人間の行動を決定すると示唆する。だが、むしろ、本書は示す。人間は、海と格闘しながら生きてきた。これからも、様々なエピソードを作り出しながら、海と格闘しながら生きていく、と。

 ◇たけだ・いさみ=1952年生まれ。独協大教授。専門は海洋安全保障。著書に『世界史をつくった海賊』など。

読売新聞
2020年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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