【聞きたい。】池田悠さん 『一次史料が明かす 南京事件の真実』

インタビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

【聞きたい。】池田悠さん 『一次史料が明かす 南京事件の真実』

[文] 喜多由浩(産経新聞社 文化部編集委員)


池田悠さん

■「米宣教師史観」の新視点

 日本をおとしめる、ウソとデタラメのプロパガンダが繰り返されてきた日中戦争の南京事件について「アメリカ宣教師史観」という新たな視点から宣伝工作の全体像を解き明かす。

 当時、南京に居残り、避難民保護を目的に掲げた「安全区」を設立・管理する「国際委員会」なる組織を立ち上げた欧米人グループの多くを占めていたのはプロテスタント系のアメリカ人宣教師たちだった。

 ところが、事件よりも前にプロテスタント組織は、『プロテスタントの中国』の実現を夢見て、国民党軍の蒋介石を支援することを決めていた。その後押しのために、虚偽の“日本軍の悪行”を垂れ流す宣伝工作を主導したのが南京に居残った宣教師グループだった、と著者は主張する。

 「在中プロテスタント教会と中国政府との関係を端的に示す決議文書が残っています。(事件の半年以上前の)昭和12年5月6日、上海で開催された全国基督(キリスト)教連盟総会における蒋介石の政治運動『新生活運動』への支援決議です。その延長線上に南京での宣教師らの行動がありました」

 宣教師らは「中立の第三者」を装い、アメリカ人宣教師が前面に出ないように、国際委員会のトップ(委員長)にドイツ人ビジネスマンのラーベ氏を推し立てる「工作」も行っていた。

 「ラーベ氏は『宣教師が言うことに間違いはない』と信頼していたのでしょう。実際に委員会を主導していたのは、アメリカ・プロテスタント長老派教会の宣教師・ミルズ師です。彼は(中立であるはずの)安全区設置の発案者でありながら、中国軍を支援するといった『矛盾した発言』を行っています」

 “80歳の老女まで強姦(ごうかん)された”“市内の至る所に市民の死体の山”などといった怪しげな情報は宣教師らから、欧米メディアの記者らにも伝わり、やがて世界へ打電されてゆく。

 「日本人も宣教師の実像が見えなかった。情報戦に負けたのです」(展転社・1200円+税)

 喜多由浩

   ◇

【プロフィル】池田悠

 いけだ・はるか ジャーナリスト。昭和54年、埼玉県出身。東京大経済学部卒。衆院議員秘書時代から南京問題に取り組む。

産経新聞
2020年2月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク