『御社のチャラ男』
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「チャラ男」を通して見えてくる戦後日本「会社制度」の崩壊
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
タイトルを見ただけで絶対面白い小説だとわかる。誰もが、自分が知っている「チャラ男」の顔を思い浮かべるだろう。そう。「チャラ男」は遍在するというこれまで誰も指摘してこなかったことを、この小説はタイトルだけでわからせてしまう。
小説の「チャラ男」、食品メーカー、ジョルジュ社の営業統括部長三芳道造は妙におしゃれで、確かに同僚から「チャラ男」呼ばわりされるだけのことはある。社長の肝いりで入社したもののろくに働きもせず、新入社員の女性からも「このひとの話すことって、コピペなんだ」と一瞬で見抜かれる人物である。
この小説のすごさは、そうしたタイトルから予想される表層的な面白さのさらにずっと先を行き、読む前には予想もしなかった深さまで会社と会社員との関係性を掘り下げていくところにある。
小説の視点は章ごとに変わる。後輩の男性になったり、一時チャラ男と不倫関係にあった三十代の女性社員になったりする。語られていた人が語り手になり、語り手が別の場面では観察の対象にもなる。主観と客観には当然、大きなずれが生じる。
チャラ男その人も、六人目の語り手として登場する。出てくる語り手はのべ十五人だから、ずいぶん早い出番である。このチャラ男の同僚の見方が実に面白い。「かれらの悪いところは働きすぎること」「お仕事教の信者」と言い放つ。
自分が同僚だったら、「チャラ男にだけは言われたくない」と憤慨するだろう。だがこれは一面の真実を言い当てていると思う。彼を「チャラ男」呼ばわりして悪役を割り振っている側は、もっと重要な、不都合な現実から目をそらしているだけかもしれないのだ。
会社という猿山に、異物である「チャラ男」を放り込んで、戦後日本を支えてきた会社制度の崩壊ぶりをリアルに描いてみせる、新時代の会社員小説である。