生田斗真に泣かされた……吉田茂を演じた鶴瓶が語った撮影秘話

インタビュー

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父 吉田茂

『父 吉田茂』

著者
麻生 和子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784101340616
発売日
2012/08/28
価格
649円(税込)

書籍情報:openBD

生田斗真に泣かされた……吉田茂を演じた鶴瓶が語った撮影秘話

[文] 新潮社


吉田茂役の笑福亭鶴瓶さんと白洲次郎役の生田斗真さん ©テレビ東京

戦後日本を牽引し、サンフランシスコ講和条約で悲願の独立を勝ち取った吉田茂。そんな宰相を長年に亘って支えた娘・麻生和子さんの『父 吉田茂』(新潮文庫)を原案としたドラマ「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~」が、2月24日(月・休)夜9時から放送される(テレビ東京系)。主演するのは笑福亭鶴瓶さん。「師匠」が「首相」になった、その心のうちを聞いてみた。

 ***


宰相愛用の白いスーツ姿で現れた鶴瓶さん

――2月某日、神奈川県大磯町の旧吉田茂邸では、吉田茂を題材にしたとある番組のロケが行われていた。宰相愛用の白いスーツ姿で現れた鶴瓶師匠のまわりには、早速「鶴瓶の家族に乾杯」さながらの人だかりが……。握手した人、遠巻きに見守る人が口を揃えるのが、「(吉田茂に)似てる」「そっくり」の評だった。実は、鶴瓶さん本人も、ドラマの番宣用ポートレートに関して、こんな経験をしていた。

鶴瓶 カメラマンが白黒の写真を見せて「これです、鶴瓶さん」と言うから、てっきり吉田さんの写真かと思って「そうか、吉田茂さんて、こんなんやったんか」言うたら、「いや、鶴瓶さんの写真ですよ」と言われて驚きました。「エーッ、これ俺?」って。家に帰ってこの写真を黙ってヨメに見せたら、僕とまったく同じ反応やった。びっくりはしたけど、うれしかったですよ。似せよう思うて、似せたわけじゃないですから。ただ、去年の夏、撮影が始まったころは映画「閉鎖病棟」で減量した余韻が続いていて、痩せていたんですよ。吉田茂なら、もうちょっと、ぽちゃっとしたほうがいいのかな、くらいは思いましたけど、物真似してもしょうがないですからね。


ドラマ「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~」より ©テレビ東京

――吉田茂と言えば、古くは森繁久彌さん(映画「小説吉田学校」)、近くは渡辺謙さん(ドラマ「負けて、勝つ」)、原田芳雄さん(ドラマ「白洲次郎」)が演じていますが、それは意識されましたか?

鶴瓶 僕は森繁久彌さんが好きなので、森繁さんの「小説吉田学校」だけは観ました。ただ、演技の参考にしたというよりは、吉田茂という人の人生を知ることができて勉強になった。それに佐藤栄作とか田中角栄とか僕らの知っている政治家の若いころが描かれているから、めっちゃ面白かったですね。とにかく、この映画を観た以外は余計な知識を一切入れず、脚本と向きあいました。脚本も、撮影に必要な分だけ少しずつ読んだ。ただ、このドラマでは、劇中にけっこう英語が出てくる。英語だけはその場でというわけにもいかんし、そのシーンの撮影前に必死で覚えてました。英国仕込みの吉田茂流というわけにはいかないけど、まあ鶴瓶流の英語ですね。でも、英語いうのは覚えたと思うても、すぐ忘れてしまうんやね。それに対して、吉田茂の右腕・白洲次郎を演じた生田斗真の英語はネイティブ並みですよ。あいつは、めちゃめちゃうまい。こっちが苦労して喋った後に出てきて、ペラペラって。なんやったんや俺の英語は、という感じです。あそこのシーン、切っといて欲しいわ(笑)

斗真のセリフに思わず号泣


ドラマ「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~」より ©テレビ東京

――実は、生田さんと鶴瓶師匠は「べーさん」「斗真」と呼び合う10年来の友人同士である。

鶴瓶 大阪の帝塚山に、僕の師匠である六代目笑福亭松鶴の家の跡に建てた「無学」という寄席小屋がある。そこで毎月1回、シークレットゲストを招いて行うイベントがあるんですけど、昨年12月にはそこに斗真が来てくれた。普通、ジャニーズのタレントは、そういう会には出てくれないと思うじゃないですか。ところがダメ元で聞いてみたら、すぐに「OKです」と。「お前、事務所はええのか?」「べーさんやったら、ええ言うてます」て。ジャニーズの扉を開けてくれましたよね。
 友達やから、一緒にゴハンを食べにいったり呑みにいったりは何度もしてますけど、役者として共演したのは初めてです。斗真は主演経験も多いだけあって、こちらを乗せるのがうまいですね。バトンの渡し方というか、気持ちが優しい。ドラマの中に、サンフラシスコ講和条約の締結直前、日本がようやく独立できると確信した僕(吉田茂)が、斗真(白洲次郎)のセリフを受けるシーンがあるんです。ところが芝居を始めると、思わず号泣してしまって、カットがかかっても嗚咽が止まらなくなった。そういう感情を、分からんように引き出すんが、斗真ですよ。これNGやなと思ったけど、監督が「OK!」「良かった」と言ってくれた。泣く芝居は「芝居じゃない」のがええのかなと思いましたね。そういう芝居を、斗真が後押ししてくれたんです。
 それから、今回のドラマで何が難しかったといえば「東京弁」でした。イントネーションの違いも、言われれば言われるほど「どっちやったっけ?」となるし。スタッフも協力してくれたけど、彼らも間違ってるとは言いにくいじゃないですか。その点、斗真は遠慮しないで言ってくれる。友達が身近にいたのは助かりましたね。いい奴やわ、あいつは。

「お座敷遊び」で出ちゃった関西弁


ドラマ「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~」より ©テレビ東京

――吉田茂の後半生を陰で支えた芸者・こりんを演じるのが松嶋菜々子さん。劇中には、こりんと二人で「お開きさん」というお座敷遊びをするシーンもある。向かい合ってじゃんけんをし、負けたほうが少しずつ脚を開いていき、先に倒れたほうが負け、という遊びだが……。

鶴瓶 松嶋さんとのこのシーンもよかったですよ。二人っきりで「お開きさん」をするなんて普通はないことやし、照れるようなシーンなんですけど、彼女は堂々としていて、こちらを照れさせないですね。以前、従軍看護師である彼女を庇って死んでいく軍医の役をやったことがありますが、この人はね、「こりん」やったら「こりん」、看護師だったら看護師と、役になりきるというか、なんでもうまく演じるんですよ。役者としての器が大きいんでしょうね。でも僕のほうはこのシーンで、思わず関西弁が出てしまった。カットになってると思いますけど。東京人の吉田茂ではありえへんことですね。

――撮影終了後に、鶴瓶師匠はキャストやスタッフ24人を、向島の行きつけのお茶屋に連れて行ったという。

鶴瓶 監督が「お開きさん」を体験したことがないというんで、みんなを連れて行ったんですよ。菜々子さんは行けなかったけど、麻生和子役の新木優子さんは一緒に「お開きさん」をやってましたね。今回初めて会ったけど、あんなきれいで、売れてる子なのに、自然体だし全然気を遣わせないし、いい子ですね。
 お茶屋には、僕は20代前半から行ってます。うちのおやっさん(六代目松鶴師匠)がよう連れて行ってくれました。師匠の奥さんの「あーちゃん」が僕をよう可愛がってくれて、「学(鶴瓶師匠の本名)、ついといで」といろんなところに連れてってくれました。「無学」に師匠と奥さんと僕で写っている写真が飾ってあるんですけど、酔っぱらっているとはいえ、僕があーちゃんの耳を噛んでますからね。その時はなんとも思わへんかったけど、考えたら、ようこんな写真撮ったなあと。
 そのころ、まだ落語は、今ほどはきっちりやってなかったかな。大阪には落語の小屋がなかったから。でも今は、落語を続けていないと気持ちが悪いんです。

「年間180席」こなす落語家


ドラマ「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~」より ©テレビ東京

――バラエティの司会にドラマ、映画でも大忙しの鶴瓶師匠が、実は落語家としても精力的に活動していることは、意外に知られていないのではないか?

鶴瓶 テレビのレギュラー番組をやりながら、年間180席くらい高座に上がってます。東京・大阪の独演会のほか、円楽さんの「博多・天神落語まつり」「さっぽろ落語まつり」のような落語会に呼ばれたり、一日で4席こなすこともあります。落語というのは、一度できたと思っても、時間が立つと「離れて」しまう。あんだけの長い噺を、ただ喋ればいいというものではない。同じテンションと同じ感情で喋るっていうのが難しいんです。だから、絶えずそういうリズムを作っておくために、舞台に上がって喋って、絶えず稽古しておかないといけない。

――「ちょっとこれ、見せましょうか?」、そう言って師匠が見せてくれたのは、日付と数字と演目らしきものがびっしり書き込まれた一冊のメモ帳だった。

鶴瓶 秒数、計るんですよ。たとえば、移動中にその噺をくってみて、どのくらいの時間がかかったかをみる。時間を自由にできる席ならいいんですけど、15分しか持ち時間がないような席で時間オーバーになると迷惑をかけますからね。ほら、昨日は4席分稽古しているでしょう? たとえば、空き時間が1時間半なら、それに合わせてどの話をくろうか考える。だから、移動の車中でも休息の時間というのは全然ないんですよ。番組の収録の合間にちょっと長めの空きがあったら、そこでもやります。嫌味を言うわけじゃないですけど、今だってこのインタビュー無かったら稽古ですよ(笑)


ドラマ「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~」より ©テレビ東京

――最後に、「アメリカに負けなかった男」で、師匠なりのお薦めポイントがあれば教えてください。

鶴瓶 演説シーンですね。演説って、難しいんですよ。エキストラの人がたくさん集まってるけど、本当の聴衆じゃなく聴衆を演じてる人じゃないですか。だから、本気で演説している雰囲気出すのが、とても難しいんです。それと、「演説が下手」な芝居もせなあかんわけですよ。下手な演技を、どのくらいまでで止めるかですよね。ぎこちない演説を演じるのは難しいですよ。最初よりは次、さらにその次と少しずつ上手くなっていくのも必要ですからね。政治家としても駆け出しですから、最初はかなり下手なんですよ、演説が。難しかったですけど、なんとか適度な下手さでできたと思います。

「喋りが命」の落語家の、「ぎこちない喋り」に注目である。

*鶴瓶師匠は、2月23日夜9時から放送される特別番組「歴代総理からわかる!池上彰のオモシロ昭和史」(テレビ東京系)にも、「吉田茂」の姿で登場します!

新潮社
2020年2月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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