知の旅は終わらない 立花隆著

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知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと

『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』

著者
立花 隆 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166612475
発売日
2020/01/20
価格
1,045円(税込)

書籍情報:openBD

知の旅は終わらない 立花隆著

[レビュアー] 木俣正剛(元文芸春秋編集長)

◆「負けてたまるか」気迫の原点

 新人編集者時代、担当した立花さんはとてつもなく怖く見えた。『文芸春秋』で「田中角栄研究」を発表以降、逆襲・復権を狙う相手と闘っていた時期である。立花流執筆術は、徹頭徹尾、資料を読破すること。立花さんは就寝前に、目覚めるまでに調べておくことを担当編集者に発注する。立花さんが目覚めると、また新たな取材が命じられる。担当編集者に寝る暇はない。また、彼の大好物はカレーパン。「ここのパンはうまいなあ」と笑顔でもぐもぐ食べる姿が懐かしい。

 立花隆といえば、形容詞は「知の巨人」。しかし、当時の立花さんは「知」よりも「気迫」の「巨人」だった。田中角栄研究を書いたのは三十四歳。その若さで国家権力と一人で対峙(たいじ)したのだから、鬼気せまる姿に見えたのも当然である。

 本書は著者初の自伝だ。この時期のことをこう書く。当時の文春の編集方針と対決し、編集局長とやりあったあげく、「田中角栄研究」の出版計画まで中止となった。「あれだけ長い間一つのものを追いつづけたエネルギーのもとは何かといえば、自分でもよくわからないが、やはり『あんな奴らに負けてたまるか』という気持ちだったんでしょうね。あんな奴らというのは、田中と田中の権力を支えていたすべての人間です」「いいなりになってしまった消極的加担者も含めてです」「あんな奴らに負けて引き下がるかどうかは、自分の生き方の根幹にかかわる問題でした」

 本書はかなり柔らかく書いてあるが、この「気迫」が今のジャーナリズムから失われつつある気がする。

 「田中角栄研究」後の膨大な活動については、私ごときでは要約できない。『宇宙からの帰還』などサイエンスの世界。『天皇と東大』に始まる近現代史の世界。なぜ、彼が、これだけ読み、これだけ書いたのか、そのエネルギーの源となった幼少期の北京時代と引き揚げ体験。若き日に旅した中東や地中海など。すべてを語り尽くした一冊は、誰もが読んでおくべき本だと思う。
(文春新書・1045円)

1940年生まれ。ジャーナリスト。著書『脳死』『死はこわくない』など多数。

◆もう1冊 

立花隆著『田中角栄研究全記録』(上)(下)(講談社文庫)Kindle版(電子書籍)

中日新聞 東京新聞
2020年2月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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