【聞きたい。】磯崎憲一郎さん 『金太郎飴』

インタビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

金太郎飴

『金太郎飴』

著者
磯崎 憲一郎 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309028514
発売日
2019/12/24
価格
3,630円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】磯崎憲一郎さん 『金太郎飴』

[文] 海老沢類(産経新聞社)

 ■繰り返しに感じる幸福


磯崎憲一郎さん

 作家デビューからの12年間に手がけたエッセーや対談など「小説以外」の仕事を500ページを超える一冊にまとめた。紋切り型、というネガティブな印象も与えかねない風変わりなタイトルは編集者を含めて相談したほとんどの人に反対された、と笑う。それでも押し通した。

 「全然違うことをやっているのに結局同じことを言っているように見える-。ミュージシャンでも画家でも、そういう芸術家に対するあこがれがあったんですよね」

 時系列に並べられた言葉を一本の芯が貫く。平成19年の文芸賞受賞の言葉にある「無理に小説に新しさを求めないことこそが小説を再生し続ける」という、新人らしからぬ宣言。それから8年後には、評論家の蓮實重彦さんとの対談で「自己実現なんてちっぽけなもの」と語る。かと思えば、かつて駐在した米デトロイトの雄大な自然の営みを美しく描写する。どの言葉も窮屈な自意識とは無縁。広大な世界や歴史の流れにそっと身を委ねるような、おおらかな境地がさまざまな文脈で変奏されている。

 「自分は、ある大きな流れの中を何十年間か生きてきたに過ぎない。そう感じたときに、自分の存在がすごく小さくなっていって連綿と続く流れの方が大きく重くなっていく。それがうれしいんでしょうね。受け身というか運命論的というか、この世界の盤石さに対する信頼がある」。だから「同じことを言い続ける自分が偉いんじゃなくて、繰り返し出てくる言葉や文章のほうが偉い」とも。

 50歳になった年に三井物産を退社し、現在は東京工業大で文学を講じながら執筆に励む。大学に行かない日は、適度な運動を挟みつつ、じっくり原稿と向き合う。「あまり旅行もしたくなくなりましたね。この繰り返しの生活、これ以上の幸福はない」。書く喜びを体中で感じている。(河出書房新社・3300円+税)

 海老沢類

   ◇

【プロフィル】磯崎憲一郎

 いそざき・けんいちろう 昭和40年生まれ。平成19年にデビューし、21年に「終の住処(すみか)」で芥川賞。『赤の他人の瓜(うり)二つ』でドゥマゴ文学賞、『往古来今』で泉鏡花賞。ほかの著書に『電車道』など。

産経新聞
2020年2月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加