『広辞苑』をよむ 今野真二著

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『広辞苑』をよむ

『『広辞苑』をよむ』

著者
今野 真二 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784004318200
発売日
2019/12/22
価格
902円(税込)

書籍情報:openBD

『広辞苑』をよむ 今野真二著

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 国語辞典が売れない時代です。昔は100万部以上を売り上げる辞書もあったけれど、今や、部数も積極的には公表しにくい状況です。

 「辞書は紙がいいか、電子がいいか」とよく議論されますが、実際は、どちらもあまり売れません。今、辞書の作り手をおびやかすのはネットの検索サイトです。ググれば無料で辞書の説明が出てきます。

 こんな時代に、分厚く重たい『広辞苑』をわざわざ買う意味はあるのか――もちろん、あります。本書を読むと、つくづく実感します。

 著者は日本語学者で、『日本国語大辞典』全13巻を読破するほどの並外れた辞書好き。そんな著者が、『広辞苑』の編集方針から説き起こし、成立までの歴史、他の辞書との違い、電子版のメリット、辞書の遊び方など、『広辞苑』全般について自由自在に語ります。

 たとえば、「返り咲く」をどう説明するか。ネット検索で出てくる『大辞泉』『大辞林』の説明は、どちらも限定的です。<春の花が小春日和の暖かさに、時節でないのに再び咲く><その年のうちに再び花が咲く>。そういう返り咲き方もあるだろうけれど、著者の語感に近いのは『広辞苑』だといいます。<花の咲く季節を過ぎて、再び咲く>。限定の緩やかな説明です。

 『広辞苑』の説明は、しばしば俳句のように簡明です。主要な意味を知りたいとき、『広辞苑』は役立ちます。また、語源に近い意味から順に並べてあり、明治以前の古典からの用例が多いのも特徴です。

 もちろん、著者は『広辞苑』と他の辞書に優劣をつけてはいません。むしろ、編集方針の違うそれぞれの辞書の価値を認めています。

 著者は辞書の世界を「小宇宙」にたとえます。ネットの辞書も、『広辞苑』も、他の辞書も、それぞれ小宇宙を持っています。辞書を引き比べ、小宇宙の違いを感じるのは楽しいものです。本書はそんな辞書生活の入門書となるでしょう。

 ◇こんの・しんじ=1958年、神奈川県生まれ。清泉女子大教授。著書に『仮名表記論攷(ろんこう)』など。

読売新聞
2020年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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