さらわれた赤ちゃん 児童虐待冤罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで 藤原一枝著 幻冬舎

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さらわれた赤ちゃん 児童虐待冤罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで

『さらわれた赤ちゃん 児童虐待冤罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで』

著者
藤原一枝 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344918672
発売日
2019/12/25
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

さらわれた赤ちゃん 児童虐待冤罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで 藤原一枝著 幻冬舎

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 小児脳神経外科医として50年のキャリアを持つ著者は、あるルールを見直すべきだと強く主張し、これまで厚生労働省に足を運んだり、リーフレットを制作したり、身を挺(てい)しての活動を行ってきた。<不当な扱いに怒りの感情がなくて、変革はあり得ない>。満を持して本書を上梓(じょうし)し、怒りの原点そして、その改善案を記す。

 つかまり立ちを始めた乳幼児が家庭内で転んで頭をぶつけ、病院に運ばれる。ここで、「急性硬膜下血腫」「眼底出血」「脳浮腫」が認められると、虐待を疑い、児童虐待防止法に基づき病院から児童相談所に通告するルールがある。その後、子どもはまるで「さらわれる」かのように連れ去られ、両親には行き先を伏せたまま乳児院に保護される。転倒時、第三者の目撃があっても、全く考慮されない。この状態で家族は、数か月を過ごすこともままある。果ては、家族が傷害致死罪で実刑を言い渡される。CTのない時代なら「脳振盪(しんとう)」という病名しかつかなかった軽傷例までが、頑(かたく)ななルールの運用により、冤罪(えんざい)へとつながっている。

 著者は、「急性硬膜下血腫」が虐待によって発症することを承知するが、同時に6か月から2歳までの子どもの家庭内の些細(ささい)な事故で起こる「中村I型」と称する急性硬膜下血腫の可能性を忘れてはいけないと警鐘を鳴らす。「中村I型」は1965年に論文発表されて以来、多くの症例報告があるが、日本脳神経外科学会と日本小児科学会との間で理解に乖離(かいり)があり、後者はこれを認めていない。さらには、法曹界では、小児科学会の意見が優先される傾向にある。

 著者は、脳神経外科医と他領域の医師が、互いに「中村I型」の解明に尽力し、適切な判断基準を作ることを願う。「自分」ではなく「子ども」を守るため、脳神経外科、小児科、福祉、法曹、なにより政府が垣根を越え、専門知識を活(い)かし、柔らかな頭としなやかな心で、問題解決にあたってもらいたい。

読売新聞
2020年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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