結婚の奴 能町みね子著 平凡社/男らしさの終焉 グレイソン・ペリー著 フィルムアート社

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結婚の奴

『結婚の奴』

著者
能町みね子 [著]
出版社
平凡社
ISBN
9784582838213
発売日
2019/12/23
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

男らしさの終焉

『男らしさの終焉』

著者
グレイソン・ペリー [著]/小磯洋光 [訳]
出版社
フィルムアート社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784845918300
発売日
2019/12/25
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

結婚の奴 能町みね子著 平凡社/男らしさの終焉 グレイソン・ペリー著 フィルムアート社

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 恋愛して結婚をする。それが「普通」の人生だと思い込んでいた。世間の「普通」から弾(はじ)かれていると感じたとき、人は絶望する。それを紛らすように自分を卑下したり、世間がおかしいと悪態をついたりする。だが、能町みね子はそこで立ち止まらずに、「普通」を打ち壊す。『結婚の奴』は著者の実体験を記した革命の書だ。

 著者は20年近く一人暮らしを続けてきたが、37歳の初夏、ふいに「結婚について考えるブーム」が訪れる。過去の経験から「交際や恋愛は無理だ」という強い確信があり、突然他人と「結婚」して家族になる計画を立てる。

 過去の「恋愛」も書き綴(つづ)られており、そのひとつが同業者である雨宮まみとの出会いだ。「私は、雨宮さんのことも確実に好きだった」。著者は率直にそう記す。だが、雨宮まみは2016年に急逝。絶望的な気分の中で、世間の言う恋慕の情とはこれだったのかと気づく。それは身勝手で、人を破滅にも追いやるものでもある。

 著者は、高校生の頃から「生に執着しない気持ちがうっすらと心の底に澱(よど)んでいる」とも記す。だが、「失恋」を経験して死に惹(ひ)かれるのではなく、意地でも「結婚」の計画を進めていく。その過程を読んでいると、行間から「生きていかなきゃね」という声が聴こえてくる。

 この優れた私小説は、あなたの中に「普通」を疑う芽を宿す。その芽を育ててくれるのが『男らしさの終焉(しゅうえん)』だ。英国のアーティストで、トランスヴェスタイト(異性装者)であるグレイソン・ペリーは、現代にふさわしくない旧来的な「男らしさ」をユーモラスに批判し、「男らしさ」を手放すことは男性も自分らしく生きる権利を得ることなのだと読者に語りかける。小磯洋光訳。

 同時期に出版された、ピンク色の表紙をしたこの2冊は、世間の「普通」を変えるはずだ。

読売新聞
2020年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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