御社のチャラ男 絲山秋子著 講談社

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御社のチャラ男

『御社のチャラ男』

著者
絲山 秋子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065178096
発売日
2020/01/23
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

御社のチャラ男 絲山秋子著 講談社

[レビュアー] 木内昇(作家)

 いる。いるよ、こういう人。読みながら幾度、声にしたか知れない。「チャラ男(お)」こと三芳部長(44歳)。万事いい加減で、意見は薄っぺら、思い通りにならないとキレる。そのくせ人あたりはよく、仕事の帳尻も合わせてくる。おしゃれで茶髪。実なんかまるでないのに、案外こういう人が出世しちゃったりするんですよ。嗚呼(ああ)。

 地方都市の食品会社に勤めるチャラ男を巡る、13名の独白からなる作品。自社を屑(くず)だと疎みつつも辞められない者、自分の秩序にこだわるあまり鬱(うつ)を発症する者、同僚を冷めた目で眺めつつ密(ひそ)かに野望を育む者。世代も資質も異なる社員たちは、それぞれ仕事上の信条がある。それは、社会を生き抜く指針、もしくは社会から身を守る術(すべ)と言い換えてもいいかもしれない。彼らの一通りではない在りようが、表面的ステロタイプの羅列とは対極の深度で描かれる。

 ひとりひとりの背景を語るのに、著者は、幼少期のトラウマだの、延々引きずるスクールカーストだのといった安直なところに落とし込んだりはしない。家族や友人との日常的な会話、社内での業務連絡や、ふと湧いた考察から、各人の根幹を鮮やかに浮かび上がらせる。それを可能にしているのが、下手に寄り添うことない真摯(しんし)な観察眼と、自己陶酔とは無縁の選び抜かれた比喩、頭ではなく身体を通した言葉の数々だ。ああ、人というのはこんなふうに、ささやかな出来事や出会いの積み重ねによって形作られていくのだな、とまざまざと思い知らされる。

 日頃SNSなどを覗(のぞ)き見るだに、人とはなんと共感を欲する生き物なのか、と呆然(ぼうぜん)とする。だが実際には、会社でも学校でも地域でも、他者と容易にわかりあえることはない。だからもどかしく、腹立たしく、そして面白いのだ。

 チャラ男自身の語りも含めた多彩な声を聞きながら、気付けば頷(うなず)いたり異を唱えたりしている。読み手と彼らとの間に、生身の人間関係が出来上がる。その意味でも出色の小説である。

読売新聞
2020年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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