『暗黒残酷監獄』
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反共感主義に激しく共感 城戸喜由
[レビュアー] 城戸喜由(作家)
ポスト・トゥルースの時代という言葉が示す通り、真実よりも感情が優先される現代は共感型社会であると言えます。
SNSで価値観の同じ人をフォローし、わかりみの深いツイートをいいねし、意見の違う人は気軽にブロックする。そうやって自分の見える範囲を好きなものだけで固めれば、そこには共感で溢(あふ)れた幸せな世界が広がっているはずです。
本当にそうでしょうか?
共感できないものを排除しようとする人がいます。理解できないもの、異質なもの、相容(あいい)れないもの、嫌いなもの。それらを否定するのも批判するのも自由です。しかしそれらの存在を「なかったことにする」のは絶対に無理なわけで、その絶対に無理なことを望んでいる人はとてつもないフラストレーションを抱えて生きることになります。
どうして人は共感を求めるのでしょうか?
共感とは、身も蓋もなく言ってしまえば、自問自答を他者の意識を使って行う不確定で高コストな行為です。
わざわざそんな壮大な無駄を行うからには、何か切実な理由があるかと思われます。
当初、受賞作は共感型社会に適応できなかった人に向けて書かれた作品のはずでした。
感情移入とかどうでもいい、共感なんてクソ食らえ。私が読者として想定したのはこういう人でしたが、後からよく考えてみると、このように開き直って超然としている人は、実は誰よりも共感型社会に適応している気がします。
共感型社会に適応できなかった人というのは、むしろ共感を求めすぎてしまった人なのかもしれません。
受賞作はそのような人にこそ読んでもらいたいです。読書は自分の追認行為ではなく未知との遭遇だと思いますので。タイトルの矛盾を受け入れて生きていくことが、人生なのだと思います。