専業主夫の日常は 『リボンの男』山崎ナオコーラ

レビュー

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リボンの男

『リボンの男』

著者
山崎, ナオコーラ, 1978-
出版社
河出書房新社
ISBN
9784309028521
価格
1,485円(税込)

書籍情報:openBD

専業主夫の日常は

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 人の生き方はさまざまなのに、女性の収入に頼って暮らす男性のことを「ヒモ」と言って揶揄(やゆ)する風潮があるのはどうしてだろう? 最近ではエッセイ集『ブスの自信の持ち方』で世の中の美醜の価値観に一石を投じるなどフラットなものの見方、考え方を提示して注目される山崎ナオコーラ。新作小説『リボンの男』は、男性の生き方の選択肢について考えさせられる一冊。

 小野常雄(おのつねお)、通称妹子(いもこ)は子供が小さいうちだけでも、と自ら進んで専業主夫になった。妻のみどりは書店員で、息子のタロウは3歳。朝早く起きてみんなの弁当を作り、幼稚園の送り迎えは原則徒歩という園の方針に従って、タロウにあわせ野川公園をのんびりあるいて片道一時間以上。保護者たちとの会話も重要な社交の場。ひょんなことで川に100円玉を落としたら諦めずに拾おうとする。そんな日常を送るうちに、妹子は賃金を得ていない自分について「これでいいのか」とふと不安になる。

 季節のうつろいを感じながら幼い息子と野川沿いを歩く時間はとっても豊かなものに思える。でも、それが毎日続くとなったら自分もやはり不安になりそうだ……と、妹子に気持ちを寄り添わせるうちに、賃金を得ているか、さらには人よりも稼ぎがよいかどうかで優劣を決める世の中の傾向に改めて違和感が生まれてくる。主婦の労働については長年さまざまな議論が交わされているが、主婦ではなく主夫を主人公にしたことで、男性側の窮屈さをも取り込んで、仕事や生き方に関する考察を深掘りしている。「ヒモ」じゃなくて「リボン」はどうか。そんなユーモアや柔軟性を持ちつつ、自分(たち)で選んだ生き方を肯定しようとさりげなく示唆してくれる優しい日常小説。著者の真骨頂と呼びたい一作。

光文社 小説宝石
2020年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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